覚醒
炎帝狼が態勢を崩した俺の元へ向かおうと揺らめいたが、光り輝く何者かに横っ腹をぶつけられ阻まれる。
「キュルケ!?」
「きゅっ!」
なんの魔法かわからないがキュルケの羽毛が輝いている。そのおかげで炎帝狼の攻撃から身を守ったどころか、一撃をくわえるに至ったらしい。
だが俺を助けるためとはいえ追撃はやりすぎた。
「下がれキュルケ!」
「きゅきゅ!?」
爪のような何かに吹き飛ばされてキュルケごと地面をえぐって吹き飛ばされた
「くっ……」
先ほどと同じように生きているのはわかる。だがもうしばらくは動けないこともわかっていた。
「まだか……」
ビレナを見るが動きはない。
「グルゥウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
俺がもう限界が近いことを察したのか、ギルが炎帝狼へ向けてこれまでで最大級のブレスをぶつける。
流石に直撃は避けたいようでそちらへの対応に向かう炎帝狼。
「これは俺も巻き込まれーー」
ギルの放つブレスは岩石と炎が混じり合い、火山の噴火のように戦場全てに襲いかかる。俺の元へも余波と岩が届くのでなんとか岩陰に身を潜めた。
これに直接狙われた炎帝狼も流石にこれまでの余裕はなくなったらしい。その場に留まったかと思うとこれまでぶれていた身体に徐々に炎の輪郭を取り戻し、光を放ち始める。それはまるで、分散していた力を1点に集中したかのようだった。
ーー次の瞬間
「キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
炎帝狼の遠吠えが周囲を景色ごと揺らした。
炎帝狼が叫んだと同時、周囲の岩肌に亀裂が走り、炎帝狼の周囲だけ重力を無視して巨大な岩石たちが舞い上がりはじめる。もちろんギルのブレスもほとんど無効化されていた。
「なんだこれ……」
その力はまさに、伝承に描かれる神の怒りのようだった。
ただし、あくまでギルのブレスに対応するために放たれた力だ。多少、いやかなりやりすぎではあるが、これだけ力の差がある相手に多少なりとも苦戦させられたことが逆鱗に触れたのだろう。この威嚇を込めた攻撃は俺相手だけなら十分すぎる効果をもたらすが、今回に関して言えば、悪手だった。
この戦闘中、キュルケの奇襲に続いて炎帝狼が受けに回った数少ない瞬間。それを見逃すビレナではない。
ーーッ
テイムした魔物の状態が肌で感じとれることは、ここまででなんとなくわかっていた。
だがこれは……。
「ビレナ……?」
目視より早く感覚に刷り込まれたビレナの変化は、炎帝狼が放つ圧など笑い飛ばすかのような強烈なものがあった。その神々しいとすら言えるオーラに少し、鳥肌がたつ。この場合はいい意味で。
覚醒したと言って過言ではないビレナの気配に安心感を覚えてその場に腰をおろした。
「よかった……」
先程までビレナがいた場所は砂埃だけが残され、炎帝狼の姿はこれまでと比べ物にならないスピードでぶれて消える。
「ふぅぅぅ……」
「もうそれ、どっちが魔物かわからないぞ……」
角をはやしたビレナは、魔力波が全身ほとばしるせいで青白く輝いており、ドラゴンはもちろん炎帝狼よりも畏ろしい姿になっていた。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ほら、はやくテイム!」
「わかった」
流石にビレナも余裕はないらしい。すぐにテイムを行うと、今度はすんなりテイムに応じてくれた。
いまのビレナ相手でどうにかなるとは思えなかったようだ。これまで蜃気楼のようにぶれていた姿がしっかりと輪郭を持ち、炎の狼が現れた。
「よかったぁ。流石に強かったねぇ」
「まぁ、運が悪ければ死んでたな」
ビレナを軽く睨む。
「にゃはは。ごめんごめん。でもリントくん、うまく戦えてたじゃん」
戦えてたのだろうか?
逃げてただけで2匹に助けられっぱなしだったんだけどな。
「それがテイマーだから。で、この子を無理してでもテイムしたかった理由、リントくんはわかってるでしょ?」
「ああ」
ドラゴンより強いからという理由ももちろんあるが、重要な点はもう1つ、別のところにあった。
それを思えばまあ、ここで命を賭ける価値も……いや命より大事なものなんかあってたまるか。
すっかり毒された自分の感覚をもとに戻そうと必死に頭を切り替えながら、新たに加わった仲間の元に歩み寄っていった。
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