次の目標

「確か王都に聖女が来るんだよね」

「そうなのか」


 ヒーラーの話題の後に聖女様が出てきた。

 嫌な予感がする。


 聖女は世界最高峰の白魔法使い。噂によると冒険者の経験があり最速のSランク到達を達成し、今や神国が誇る貴族、いや皇族に近い天上人だ。


 そして嫌な予感は的中する。


「テイム、しちゃおっか?」

「は?」


 いたずらっ子の表情で片目をつむってこちらを見上げるビレナ。

 いやそんな軽いノリで国際問題になりかねないことをぶちあげないでほしい。


「私聖女ちゃんとはちょっとしたつながりがあるんだよね。多分リントくんの話したら乗ってくるよ?」

「いやいやいや、聖女様をテイムなんかしたら俺神国に指名手配されるだろ」

「大丈夫大丈夫、神国って名ばかりで強くないし」

「そういう問題じゃない!」


 小国とはいえ聖女は一国の象徴。実権はともかく格付けでは他国の王に並ぶ扱いを受けている相手だ。

 しかも今代の聖女は歴代最高の力を持ち、Sランク冒険者にも認定された伝説の存在。万が一テイムができてしまったら、個人のファンにも狙われることになる。

 いくらヒーラーを探すといってもやりすぎだ。


「でもさ、聖女様。見た目はロリって感じなのに、おっぱい大きいよ?」

「……」


 ここで黙ってしまったのがよくなかった。


「じゃ、けってーい!」


 ロリ巨乳か……。悪くないよね。

 いやそれで決めていい問題じゃない。

 ただすでにテイムしたばかりのギルに乗ってバシバシ背を叩くビレナを止められそうにない。


「ほらほら。冒険者なんて楽しんだモン勝ちでしょ!」

「やりすぎって考えはないのか」

「そんなの気にしてたらSランクなんてムリムリ〜! ほらほら! 人間の寿命は短いんだから早く!」


 獣人は人の3〜5倍は生きると言われているからそうなんだろう。


「あ、エルフの女王なら秘術で寿命伸ばせるか! 次はそっちだねえ」

「エルフの女王までテイムするのか?!」

「すっっっっっっっごい美人だから。おっぱいはないけど」

「それはそれで……」


 違う。すっかり毒されているが違う。


「あとは魔族とか、その中でも強い子探してテイムしちゃえばもう完璧だね!」

「テイムで何でも解決できるのか……」

「それだけの力が、君にはあるんだよ」


 目の前のドラゴン。

 そのドラゴンすら一撃もくわえることなくひれ伏させるSランクの獣人。

 それをテイムしている俺……。


「どう? ちょっとは実感が湧いた?」

「いや、まったく」


 ギルに跨りながら話を続ける。


「ま、そのうち湧くよ。ほらほら! しっかりくっついて!」


 竜の背にはいつの間にか鞍がついている。

 収納袋。それ1つで普通の人間が稼ぐ一生分の金が動くと言われる高ランク御用達のアイテムから出したようだ。

 物理法則を無視した収納能力があるのは知ってたが、ビレナはなんで竜用の鞍を……?


「あ、これ? そうだねー、1個あげるね! 不便だろうし」


 何か勘違いしたらしく収納袋を無造作に渡してくるビレナ。


「いやいやいや?! これはさすがにダメだろ!」

「いいのいいの! 私のステータスを1.5倍にしてくれた分! まあすぐ自分でも稼げるようになるから!」


 押し付けられるように持たされたそれを落とさないように何重にもくくりつけた。恐ろしい……。これ1つで俺の命など5も10も買い取れるだろうに……。


「じゃ、おっぱいに向けてしゅっぱーつ!」

「それはほんとにどうなんだ……」

「ひゃっはー!」


 ビレナが楽しそうだからまあ、とりあえず良いとしよう。

 これからの冒険者生活にどこかワクワクしたものを感じながら、ギルを羽ばたかせようとしたところだった。


「待って!」


 ビレナが鋭く叫んでギルを止めた。

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