崩れていく常識
「さて、無事パーティーも組めたし、依頼はリントくんに合わせるとして、ちょっと行きたいところがあるんだよね」
「行きたいところ……?」
そんな話をしながら掲示板をちらっと見たかと思うと目にも留まらぬ速さでCランク向けのクエスト10枚を抱えてくる。
「これでリントくんもパーティーも、Cランクまではいけるね」
依頼は基本的にいくつでも受けることは出来る。ただ普通違約金が怖くて受けても2,3が普通だ。10も抱えてくるのはちょっと意味がわからない。
「1日で動ける時間を考えたら、この中で7,8は確実にこなせるからね。違約金なしで5個しかできないか、違約金とプラマイを考えて7,8個実績を積むかだね」
「なるほど……」
その発想はなかった。
「実際これは1人用ってわけでもないし、緊急でもないしね。私達が今日受けきれなくても誰も困らないよ」
「そうか……」
このあたりの考え方の違いも、Sランクになる人間ってのはすごいなと感じる。これがあるからこそ、ビレナはしばらくここのトップランカーとして君臨しているんだろう。
参考になるな……。いや、なるか……?
悩んでいる俺のことは気にせずビレナが準備を整えて出発を促す。
「じゃあ行こうか」
「えーっと、目的地も知らないけど」
「まぁ良いから良いから」
Cランク向けの依頼に合わせているとなればそんなに無茶なところには行かないだろうと信じ、ビレナの後を追いかけた。
◇
「いやまぁ、信じちゃダメなことはわかってたはずなんだけどな……」
移動手段すら意味がわからない。突然手をつないできたので可愛らしいところもあるなとほっこりした瞬間、景色が後ろに消え去った。
無造作に握った手を引いて“瞬光”が全速力で移動し始めたんだと気づいたのは、ほとんど目的地に到着した頃だった。
「にゃはは、大丈夫だった? 大丈夫だよね。じゃあ行こう」
「念のために言うけど俺はDランクだからな? いまの身体がちぎれなかったことが不思議なくらいだからな!?」
俺は手だけを引かれて宙を浮いた状態。手がちぎれなかったのはかろうじてそこに魔力を割いてくれているからだろうが、恐怖以外の何物でもなかった。
「まぁいいじゃんいいじゃん。それよりここで、狩りをするよー」
俺はここに立ってるだけで命がけな状態なんだが……。狩りをするのか……。
「ふふーん。いい狩場なんだけどね。今日はリントくんにテイムしてもらいたい子がいて」
「いやいやいや、ここの適正ランクはA+だろ?!」
ビレナに連れてこられたのは山岳地帯の奥、竜の巣と呼ばれる火山地帯だった。ここでは逃げ隠れするしかない餌と言える魔物たちですら、俺より遥かに強い。いますぐ逃げたいがビレナのそばを離れたらその瞬間確実に命がなくなるので仕方なく付いてきている。
「にゃははー。Sランクの冒険者をテイムしたのになにびびってんのさー」
「敵性の魔物とそうじゃないやつの差があるだろ!」
自分より強い味方がいても自分自身が強いわけじゃない。これもテイマーが劣等職と言われる理由の1つだ。
「で、まさかと思うけど俺にドラゴンテイマーになれとは……」
「あ! いいねー! ここの子たちならどれでも良かったんだけど、やっぱ男の子はそうじゃなくっちゃ」
「いや違う! ドラゴンがテイムしたいわけじゃ」
「じゃ、レッツゴー!」
それだけ言うとここへ連れてきたときと同様、手を引いてすごいスピードで走りだす。
「そう考えると……移動手段として竜くらいテイムしたほうが命の危機は減るかもしれない……」
そう口に出してから、だいぶ毒されているなと気づいたがもう今更だった。
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