5 リントの力

「さて、本題に入るけど」


 ようやくまともな服に戻ってくれたビレナと話を再開する。

 さすがに精も根も尽きるまで搾り取られたと思う。なぜかビレナは前より元気になってるが。


「確信を持ったよ。君のテイムは普通じゃない」

「はあ……」


 そう言われても実感が湧かない。


 テイムとは契約の魔法だ。

 基本的には優位にたった側が一方的に協力を求める形に見えるが、信頼構築のために例えば食い物を要求されたり、魔力を要求されたりといろいろ条件に折り合いをつけて魔物との間に契約を交わし、協力を得るのがこの力だ。


「まずね、信頼が軸になってるテイマーって、数えるほどしかいないんだよ」

「そうなのか……?」


 俺のテイムは文献から見様見真似でやったものなので参考にした師匠もいない。


「普通は奴隷契約の延長で考えるのがほとんど。魔物は使い潰すし、絶対に反抗させないように押さえつけるほうが多い」

「それは……」


 そういうものなのだろうか? ほかのテイマーをよく知らないからなんとも言えないが。


「たぶんね、リントくんは文献にでてきたテイマーを参考にしたから……あれってほら、言っちゃえば子ども向けの理想が詰め込まれてて、実際に今ドラゴンテイマーなんていないからさ」

「えっ」


 嘘だろ……? じゃあ竜騎士は……。


「あれはもう、馬や牛と同じで、調教方法が確立されてるから。特に契約してるわけじゃないんだよ」

「そんな……」


 将来は竜でもテイムして楽をしながらかっこよく戦う姿を想像していたというのに。


「そもそも竜騎士は竜なしでも相当強いからね」

「それはそれ、これはこれだ」

「にゃはは。まぁリントくんならそのうち竜も従えることになるよ」


 サラッと言うがそんなことはないだろう。Sランク冒険者とこうして話ができているだけでふわふわしてくるような人間に竜を従えるなんてな。


「ま、とにかくリントくんのテイムはちょっと特殊なんだよ。だから、契約を終えたつもりのこの子だって付いてきてる」

「きゅっ!」

「ちなみにこれ以降、テイムしたことなかったでしょ?」

「よくわかったな……」


 テイムの手順は基本的に、相手に反抗する気持ちが芽生えないくらいボコボコにしてから手を差し伸べるように契約にうつるというものだ。

 俺の力でそこまで差をつけて倒せるのはスライムくらいだった。こいつに関しては出会った瞬間に服従の構えを見せたのでそれすら必要なかったわけだが。

 その後、こうしてDランクになるまでコツコツ冒険者を続けてきたが、テイム出来るような魔物に出会うことはなかった。いやあるはある。ただスライムを増やしてもしかたないし、ゴブリンを従えてもちょっと街に出入りしづらくなる。

 結局こいつ以外を従えることもないまま王都に辿り着いたわけだった。


「まあいまやリントくんいつの間にかSランクの獣人すらテイムできるようになった最強テイマーくんなんだけどさ」


 最強テイマーか……。テイマーの最強って普通の冒険者に混ぜ込むとどのくらいの地位にいるんだろうか? ほんとに俺が最強ならDランクということになってしまうからやめてあげてほしい。


「ま、それはそうとして、すごいのはそれだけじゃなくてさ」


 亜人をテイムしてるという時点ですごいではなくやばいやつではある。

 ちなみにテイムされてもビレナの変化は特にない。強いて言えば何かされることに抵抗感がなくなったということらしいが、テイム前からあの発言が飛び出すエッチなロリお姉さんなので何も変化が見られないわけだった。


「力がみなぎるって言ったでしょ? 私ね、自分のステータスならある程度鑑定できるんだけど、多分全体的に1.5倍くらいの強さになってる」

「は……?」


 Sランク冒険者の1.5倍? なんだそれ……?


「にゃはは。私もびっくり。でもこれ、テイムされてるからだって確信が持てる」

「そんなバカな……」

「後多分、キュルケちゃんの変化もわかったよ。この力、うまく使えば存在進化どころか、ある程度望んだ力に変換できる」

「嘘じゃん……」


 そんな馬鹿げた話が。


「ほら」

「えええええ」


 ビレナの頭に今までなかった角が生えていた。


「角付きの魔獣が他の魔獣の3倍くらいの力になるのは知ってると思うけど」

「3倍?」

「うん。あれ? 知らなかった?」


 角付きとそうでないので差がでることは知っていたがそこまでの差は知らなかった。


「ということで、ビレナ、3倍です!」


 ヒュンっと奮った拳に風が乗って


 ――パリィィィィン


 高そうな魔法灯が1つ犠牲になった。


「嘘……」


 これに驚いたのはビレナの方だった。


「ずっと修行してきたけど一向にできなかった衝撃波が、こんなあっさり……」


 こっちは壊れた備品が高そうすぎて気が気じゃない。


「すごい! すごいよ! リントくん!」


 テンションの上がったビレナに押し倒されるように抱きしめられ、そのまま寝るまでにもう一回襲われた。

 意外といけるもんだなと思った。


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