4 エッチなお姉さん

「この子が君の子かー」

「そうだな」


 ビレナがキュルケを撫でながらいう。


「んー、やっぱり」

「ん?」


 キュルケをひとしきり撫で回すと、なぜか納得したように頷いてこちらを見る。


「多分だけど君、テイムだけじゃない特別なスキルがあるよ」

「え……?」

「魔物の進化は聞いたことあるし、私も実際に見てきたけど、スライムがこんなになるなんて初めてだもん」

「そうなの……か?」


 俺にとっては当たり前というか、他を知らないので普通だと思っていたキュルケだが、Sランクまで上り詰めた人間が言うなら普通ではないのかもしれない。

 何が普通じゃないのかはいまいちわからないが。


「その辺りはま、今度知り合いの鑑定士に見てもらうとして」


 さらりと言うが鑑定は普通安い家か馬車が買えるほどの金額が必要だ。

 いや金銭感覚は違うだろうな。今日のこの店も、宿舎に併設された格式高い料理店。メニューに金額すら書いていなかった。怖すぎる。奢りというので遠慮なく頼んだが。


「で、提案なんだけどね」

「んむ?」

「あはは……そんな勢いよく食べなくてもまた奢ってあげるから……」


 呆れて笑う見た目は年下にしか見えない美少女。だが貰えるもんは貰う。


「で、提案ってのは?」

「あのさ、私のことテイムしない?」

「は……?」


 亜人をテイムなんざ聞いたことないというか、それは禁忌じゃないのか?


「私から言ってるんだしいいんじゃない?」

「いやいや。そもそもこの力はそんな万能じゃ」

「試したこと、ないでしょ?」

「それは……ないけど」


 そもそもそんな発想がない。普通の人間なら。


「普通の人間じゃSランクにはなれないからね。で、やってみてよ」

「仮にできたとして、いいのか?」

「んー? 別に奴隷契約ってわけじゃないし」

「そうなのか……?」


 テイムと奴隷の線引は対象がコミュニケーションの取れる存在かという、その程度の差しか認識されていない。


「奴隷ほど絶対逆らえないってわけじゃないしさ。ほら、信頼がなくなったらテイムって解除されちゃうんでしょ?」

「それはそうだけど」


 ただ抵抗する意識は削がれるはずだし、テイムされていい気持ちはしないのではないだろうか?


「あ、エッチなことくらいはされちゃうか! まあでもいいよ?」

「ブフッ」


 そんな軽く?!

 思わず飲んでたものを吹き出した。


「あははー。その反応、童貞だなー?」

「うるさい」

「いいよいいよ。こう見えて見た目よりは歳も重ねてるし、そんな夢見る乙女ってわけじゃないからさ」


 そうは言うが見た目は完全に少女だ。まぁSランクまで上り詰めた獣人ということであれば、100を超えていたって不思議ではない。もう年齢なんかどうでもいいんだ。可愛い、ただそれだけで正義だ。

 ただまぁ、そんな欲望に素直になれるわけもないので尻込みする。


「いや……でも……」


 その言葉を受け、イタズラな笑みを浮かべたビレナがこちらへ身を乗り出して耳元でささやく。


「したく、ない?」

「します」


 話はまとまった。


 結論だけ言えばすべて丸く収まった。

 獣人であるビレナのテイムに成功し、俺もせいこうした。


「すごい……力がみなぎってくるよ」

「俺はもう、全部吸い取られた気分……」

「にゃはは……修行が足りないな」

「修行でなんとかなるんですか……師匠」

「稽古つけてもらう気満々だ! いいよいいよ、毎日しようね」


 Sランク冒険者はベッドの上でも高ランクだった。


「さて、真面目な話に戻るけど」

「とりあえず服を着てください」

「にゃははー。照れちゃって―」


 小柄だと思ってたのに出るとこはちゃんと出てるし獣人可愛いしこの子は耳と尻尾以外ほぼ人間だし混乱する。


「で、本題だけど」


 適当に服を直して座り直すビレナ。まだ色々見えそうで見えないような状態だがまぁさっきよりは……いや逆に見えそうで見えないこれのほうが集中できない。


「ほーんと、若いねえ、リントくん」


 2回戦に突入した。

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