3 洗礼
「おい、お前」
ビレナとは一旦別れ、王都ギルドへ拠点変更などの手続きを行なった。
一通り終わってギルドを出ようとしたところで全身傷だらけの毛むくじゃらの大男が声をかけてくる。周りに取り巻きを引き連れて。
「ん?」
「どんな手を使ってビレナを落とした?」
「いや、これと言って何も?」
全く身に覚えがない。匂いと言われたが自分で気にしたこともなかった話だ。
「よーし、ビレナを俺のとこに連れてきたら許してやろう」
「許す?」
何いってんだこいつ。
「お前さん、見てりゃDランクかそこらって話だろう? そんな雑魚より俺のほうがあいつと組むにはふさわしいだろう?」
「そうか?」
むさいおっさんと獣人美少女の並びを想像する。その絵面はやばいだろ。
「てめぇ! 舐めた口利いてねぇでギーラン様の言う通りにしやがれ!」
「あ?」
「ひっ」
取り巻きが吠えるがひと睨みしたら引き下がった。なんなんだ……。
「おっさん、大して強くないくせに取り巻き引き連れてるからか偉そうだな?」
「は……?」
ついイラッとして口に出してしまう。まあ言ってしまったものは仕方ない。取り巻きを含めたってキュルケより強いとは思えないし、別にいいだろう。
「ビレナと組みたきゃ直接頼め。俺の知ったことか」
「てめぇ!」
掴みかかろうと手が伸びるが、相棒が阻止する。
「は?」
「おいおい、スライムも倒せないのにそんな偉そうにしてたのか?」
周りから笑い声が巻き起こった。
「バカ言え! これがスライムって……いてて!」
「紛れもないスライムだよ。進化しただけの」
「進化だぁ?! んなもんできるテイマーなんざいてたまるか!」
「ここにいるんだからそれを認めろよ……」
厳密に言えば俺がそうしたわけではないがそんなことはそれこそ、知ったことではない。
「で、どこの雑魚よりふさわしいんだ?」
「てめぇ! 魔物がつええくらいで偉そうにしやがって!」
「悪いか? それがテイマーだからな。俺はそれを悪いとは思わんし、これからも存分にその力を生かしてのし上がる!」
「ぐはっ?!」
キュルケに手を添えておっさんを投げ飛ばす。
「わわ……うわぁ!」
取り巻きたちが怯えて蜘蛛の子を散らしたように消えた。残ったのは卓を1つ派手にぶっ壊して伸びてる大男だけ。
「マスター、この場合こいつの支払いだよな?」
「あぁ、全部見てたから心配しなくていい」
ギルドの揉め事は起こした本人がツケを払う。地元のオリジナルルールでなくて良かった。
「にしても強いな。フレーメルの新人は」
「こいつが弱かっただけだろ?」
伸びた男を指差していう。こういうのはフレーメルでもいた。新人にマウントを取ることでストレスを発散するうだつの上がらない冒険者。そういうのは決まってCランクの壁で悩むんだが、俺相手でこれじゃなんでつっかかってきたかわからんな……。
「いいや。一応それでもBランクだよ。問題も多かったけどね」
「は……?」
Bランク? あれで……?
Bランクと言えばもう、一流の冒険者のはずだ。下手をすれば貴族や大商人から専属依頼を受けるなど目をかけられるプロの中でも一握りの存在。
Dランクがようやく一人前と言われ始めるランク。Cランクで冒険者だけの稼ぎでやっていけるいわゆるプロ。Bランクともなれば雲の上の存在。それが今までの認識だった。
「王都と地方じゃ依頼数が違うからな。こっちじゃうまい依頼がおおいんだ」
「なるほど……?」
にしたってこれでBランクじゃ……。いやまぁいい。フレーメルはレベルが高いなんて話は、身内の贔屓目でしかないと思っていたが、こうなってくるとその話も少し変わるな。
「かといって王都はライバルが多い。甘い世界じゃないんだが……いまのアンタに言っても何の説得力もないな。ま、次はもうちょい控えめにやってくれると助かるよ」
特に動じた様子もなく片付けが始まるギルド酒場。こんなのは日常茶飯事なんだろう。
騒ぎが収まっていくのを見て、俺もギルドを出て待ち合わせの店に向かった。
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