2634年某日 フルグ・エーステライヒ国境 アルグィン 「ソマの左手⑥」
「蛇と王様」は世界的に有名な寓話。
青年シャトー=ケイレヴが古代文明において冒険により財を成し、やがて一代勢力を築いていく物語である。
その作中にてシャトーは、かつて古代文明において”力”の象徴とされた蛇と一騎打ちを挑み、勝利したことをきっかけとして、他の蛇たちや諸氏族から認められ成りあがっていく。
かつて”ナイスハロルド放送”をかじりつくように視聴していたソマには、放映されていたドラマの中でも蛇に闘争を申込む場面が、しっかりと記憶に刻み込まれていたのだ。
唐突な申し出に、蛇は一瞬困惑の表情を見せた。
その瞳が左右に散り、そしてソマの姿をまじまじと見つめる。
やがておもむろにソマが腰に差している銃剣に目をやり、人差し指を向けソレは流暢に発声した。
「ハルドゥルラビ!・・・ケルム アウ グラビラスィ ヘルスリァ アントノィエ
バンシィ ラル・・・ソマ(おおそうか!・・・戦士・・・ソマよ、このバンシィ 汝のグラビラスィの宣誓を快く受けようぞ)」
ソマには蛇=バンシィが何を言っているか詳細は理解できなかったが、その言葉の大意を掴むことはできた。
なぜなら、ソレはケーリーダンスの相手が見つかった時のように口角を上げ、息を荒くしていたからである。
彼の生まれたアルビオ連邦においては、蛇が好戦的な種族であることは常識のある人間であれば大抵知っているものであった。
であるから、機関砲が収納され腰の後ろから短剣が、血管の浮き出た恐ろしく太い前腕によって引き抜かれるとソマは大変に後悔をした。
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”蛇”足チェックポイント!:前述のように蛇(ホモ=サピエンス=サーペンテス)は一騎打ちを(彼らの言葉で)挑まれると、それに乗ってしまうという悪癖がある。
それに対して後年、成形炸薬弾を先端に装着した剣状兵器(スパータ)が配備された。
劣勢となった際、名乗りをあげコレを用いて蛇との一騎打ちを行うというものである。
これによって、一体で数十人の兵士を相手取ることが出来る蛇を、一人の兵士が”釘付け”にすることが可能となった。
体躯、膂力ともに劣ったヒトが蛇と闘うことは現実的ではなかったが、連合軍(特にアルビオ連邦)では大量にスパータを供給し本土決戦に備えた。
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