「魔道祖師」にはまる

 結局、この作品に、夢中になってしまった。


 まず、映像が素晴らしかった。構図の取り方が、アニメというより、映画的だ。冒頭、月夜を進む温氏の一団を俯瞰で捉えたり、主人公の登場シーンの見せ方など、中々凝っている。


 そして、オープニング。芝居の幕開けを告げる拍板はくばんに続いて、雅びな琴と静かで哀愁を帯びた笛が響き、墨で描かれた竹の葉先から、露が零れ落ちタイトルへとつながっていく流れ、水墨画調の抑えた色調の映像が美しい。


 オープニングとエンディングの曲は、通常のアニメソングの概念とは、全く異質なものだ。


 笛と琴を織り込んだ旋律は、幽玄と侘び寂び、この世の無常と「もののあはれ」すら感じさせる(何とも皮肉な表現だ)これらの完全版をヘッドホン、または、オーディオ機器につなぐなり、飛ばすなりしてスピーカーで聴くと、より一層、その世界に浸ることができる。


 歌詞も美しい。「酔夢前塵」の中にある、哀しみと諦観とはかなさ、「問琴」から漂う詩情と繊細さは、まさに、漢詩の国の面目躍如めんぼくやくじょというところか。


 アニメと言うからには、動きであるが、所作や表情など、芝居の付け方もこだわっている。特に一話目について例を上げれば、夜半召使いの一人が、廊下から庭に降りていくくだりの表情や動作の付け方が結構気に入っている。アクションシーンの配分や見せ方も良い。


 また、背景美術が素晴らしい。有力仙家の一つである藍氏の拠点、雲深不知処の清冽な美しさ。精細で抒情豊に描きこまれた街の風景や、建築物や調度品の数々は眼福である。


 この作品の世界は、映像、美術、音楽にいたるまで、統一された美意識で貫かれている。ちなみにそれは、提携するアイスクリームのCMにまで徹底されているのだから、凄まじい。


 そして、ストーリーが面白い。深まる謎と、善悪愛憎ないまぜの、複雑な人間関係、魅力的な登場人物たちが繰り広げる、波乱の展開に引き込まれる。魏無羨が善か悪かは書かないでおくが、悪とは善が定めるものなのだ。


 アニメの内容は、原作に全く忠実と言う訳ではないが、深く読み込んだ上で、再構築されている(尚、原作はBL小説であるが、映像化に当たっては、その要素は取り除かれている)


 いずれにせよ、このようなものを作り上げたスタッフの熱意と手腕には、驚嘆を禁じ得ない。これだけのものを作るのに、どれほどの資金が投入されただろうか。想像するとため息が出る。


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