<<interlude>>
これは、山奥にひっそりと聳え立つ”とある施設”内での音声記録である。
<<I-1>>
「やれやれ、ようやく復旧ですね。まさか停電如きに1ヵ月半もかかるとは。」
2か月前の大豪雨の際、突如発生した落雷によってインフラは壊滅した。
突如発生した落雷により、大火災が発生し、その直撃は施設内の通信設備に甚大な被害を齎した。
絶望だった。ここは誰にも観測されない秘境の中に秘匿された研究所。
明かりも連絡手段も無く、人も呼べなければ、そうするための足も無い。
救難信号も送れない中、来るかどうかも分からない救助隊の到着を震えて願うしかなかった。
そのような中、消火設備が生きており、食料庫の備蓄が潤沢だったことだけが唯一の救いだった。
人類には早過ぎる研究の数々。
執り行われる実験記録の数々は厳重に管理する必要がある。
そのことが幸いだったのか、救助隊による復旧作業は迅速に行われた。
全く、息の掛かった連中というのは。
普段はトロくさいことこの上ないのに、こういう時ばかりは行動が早いのだな、と逆に感心した程だった。
・・・いや、今の二言は余計だったな。後程、削除編集を要求する。
「そういや、地上からはこちらの様子が丸見えだそうだな。」
まるで天然の結界だとまで言われていた雑木林はいまや、すっかり肌蹴けて山肌が露出しており、この研究所が佇んでいる様子が都市部からも観察出来るようになってしまった。
火災直後、その様子は住民達の中で話題となり、一週間は騒がれたという。
まぁ、見えるとは言ったものの、山中には無数の地場発生装置が埋め込まれている。
乗り物類の計器は例外なく狂うので、空から近付くことは不可能と言える。
だからと言って地上から直接踏み込もうものなら、複雑に入り組んだ地形に飲み込まれるかのように消息を絶つことにだろう。
故に、視認出来てもメディアの目は届かないので、事態が露見する心配はない。
しかしながら、皮肉にもそのメリットは我々に対して牙を剥いてくる訳で・・・。
非常に傍迷惑な仕組みである。
「隠居よろしく、俺達みんなひっそりお星様になるところだったって訳だ。」
「ただでさえ娯楽がないのに、一か月以上も真っ暗な中で大人しく引き籠って。生きた心地がしなかったぜ。」
「そんなの別になんてことないわよ。」
「は?」
「どうせ私達、死んでるも同然だったじゃない。いつだって、通信手段を制限されて、ネットワークや施設の利用にも何かしらの監視が付き纏う。なら、停電なんて些細な問題じゃない。寧ろ解放されて、久し振りに生きた心地がしたくらいだわ。」
「データベースの復旧作業はどうなっている。」
気の抜けた会話を繰り広げている中、突然開いた扉の音に、研究員達は背筋を伸ばした。
「室長!はい、問題ありません。現在、データの7割方がリカバリー済みです。バックアップサーバーの耐災害対策をしておいて正解でした。」
「結界は?」
「結界の展開、問題ありません。外界からの完全な不可視化まであと46分程です。」
「よし。各自、このまま作業を続けてくれ。それから観測班。」
「はい。見つけたら直ちに報告せよ。落雷が生じたポイントに絞り込んで探せ。方角は消失直前の反応から拾える筈だ。」
「承知いたしました。」
なぁ。お前は今、何処にいるんだ・・・。
<<I-2>>
研究所の復旧作業が終わって2日後の事。
一か月以上も懲罰房に閉じ込められ、封印処置まで施された私の釈放が認められた。
封印処置とは、生命活動を維持したまま、栄養補給等の生命維持を絶つことを意味する、一種の拷問行為だ。
あぁ、何もかも全てアイツのせい・・・屈辱よ、屈辱。
絶対に許してやらないんだから。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・
「おい、目的地に到着だ。おい!起きろ。」
「何よ、煩いわね。あぁ、もう・・・。殺しちゃおうかしら!」
黒服の男に揺り起こされ、少女は不機嫌そうに返答した。
「・・・作戦行動中だ。逆らえばどうなるか、分かっているな。」
「知ってるわよ。シャワーは大好きだけど、鉄臭いのは御免だわ。折角のおめかしが台無しだもの。」
スカートの裾を摘まみ、寧ろこちらから願い下げよ、と少女は口にした。
上品に振舞ってみせてるものの、その口元は歪に曲がっている。
忠告したつもりが、逆に脅しをかけられるとは。
全く、よくもここまで凶悪な設計にしたものだ。
「観測班の報告によると、目標の反応はこの地域で途切れている。そして、そこから推測するに・・・」
「必要無いわ。」
「なんだと?」
黒服の伝達を無視し、少女は車の外へと飛び出した。
「言われなくても分かるわ。役立たずは馬鹿面して星空でも眺めてるのね。」
上から目線の黒服共に嫌味を言うと、少女は遠方の丘に目線を向けた。
「ふふっ、家出なんていけない子。」
しっかり、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます