今日は学校が休みだった。朝から弟と二人で墓参りに出かけた。

 山中にある墓で、結構歩く。弟はスポーツやってるからスイスイ登るが、僕は足を棒にしながら亀の歩みで登って行った。

「がんばれー」

 坂の上から弟がエールを送ってきた。


 掃除をして、花を供えて、線香を立てて、二人で両手を合わせた。

「あれからもう三年経つんだな…」

 弟がしみじみ言った。

「姉さん花が好きだったよな、生きてたら今ごろ花屋でバイトでもしてたかな」

「そうだね。あまりに有能過ぎてバイトなのに大型の新規契約取ってきたりして、店長に実の子どもそっちのけで跡継ぎ候補にされてたりするかも」

「なにそれ」

 弟が笑った。


 帰り道。弟と並んで歩く。

 僕はかなり警戒していた。今までの経験通りなら、前回起こった事はもう一度起こるはずだった。しかし、見える範囲内に脅威になりそうなものは見つからない。やはりあの襲撃者は今の世界の法則に当てはまらない存在なのか。

「なにきょろきょろしてんの?」

「いや、なんでもないよ」

 僕の心配をよそに、僕らは何事もなくマンションまで帰った。


 マンションの前まで来た時、弟の携帯が鳴った。友達かららしい。

「ちょっと行ってくるわ」

 そう言って弟は友達のところへ行ってしまった。僕は一人でエントランスホールに入った。

 ホールには若い男が一人立っていた。黒縁の眼鏡をかけ、スーツ姿で右手に杖をついていた。

 前回どころか、今までに見た事の無い男だった。男はにこやかに話しかけてきた。

「ウチのぽんこつが失礼を働いたそうで大変申し訳ありません」

 やはり襲撃者の仲間か。

「あんな事をした後でなんですが、よかったら私に話をさせてもらえませんか?あなたの助けになると思います」

「…話してみて」

「では」

 男は語り始めた。



「あなたは三年前から今に至るまで死人が生き返った夢を見続けています。この夢を見せている存在、仮に悪霊としますが、この悪霊の目的はあなたの生命力です。このままあなたが夢を見続ければあなたが死ぬだけでなく、悪霊が力をつけて次の犠牲者を出すでしょう」

「それで?」

「あなたを助ける方法は二つありました。一つは現実で眠っているあなたに接触する方法。もう一つは現実のあなたが起きている間に夢の中のあなたに接触する方法。しかし、これらは両方とも困難でした。

 悪霊は自宅の寝室に現実と夢の両方で結界をはり、あなたを無意識で操ってそこでしか睡眠を取れなくしたのです。この悪霊はかなり狡猾でした。そもそも三年もの間我々から見つからなかったのも、完全に都合のいい夢にせず、一人生き返って一人死んでいる、という完全に都合がいいわけではない受け入れやすい夢を作り出していたからです」

「僕のこの予知能力はなんなの?」

「それは悪霊の力の一部です。あなたが危機に陥ったので発現させたのでしょう。

 ちなみに現実と夢で同じことが起こる現象ですが、それは夢で現実を予知夢して、現実に起こったことを夢に反映させていたからですね」

「…なるほど、よくわかったよ」

「おわかりいただけましたか」

「僕にはあんた達が必要無いってことが」

「ほう?」

「僕が死のうが他の誰かが犠牲になろうがそんな事はどうでもいい。僕は今の世界で夢を見続ける。それだけだ」

「そうですか…、交渉決裂ですね……」

 瞬間、男が殺気を放つ。

「クロ!!」

 僕の足下からフードの女の子が現れて蹴りを放った。いつのまにか僕の影の中に潜んでいたらしい。この距離では回避は不可能だろう。普通ならば。

 僕はすでにそこに居ない。この攻撃は予知していた。

 敵は強い。能力を使って一旦逃げて、なんとか対抗策を練らなければ……………………………眠い。

 僕は膝をついた。なぜだ?予知にかからずに攻撃できるはずが…………。

「やはり予知を使いこなせていませんね。クロの蹴りを予知した際に一瞬隙が生まれました」

 男が近づいてくる。僕はもう指一本動かせない。

「…いや…だ」

「大丈夫、元に戻るだけです…ただ元に…」

 男の手が僕の両目を覆った。

 僕は眠りについた。

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