目が覚めるとそこには弟がいた。

「おはよう、ひー兄」

 そう言いながら僕の部屋のカーテンを開ける。そして部屋を出て行った。

 僕は朝に弱い。エンジンがかかるまでぼーっと部屋を見回す。

 漫画ばっかりの本棚、アナログ目覚まし時計、写真立てに入った五人で写った家族写真、箪笥、壁にかかった学生服、いつもの部屋だ。

 一度ぐっと伸びをしてベッドから出て、身だしなみを整えて制服に着替えてリビングへ。

 キッチンからいい匂いがする。今日の食事当番は弟だ。食卓には二人分の朝食が並んでいた。トースト、サラダ、目玉焼き、朝食の定番だ。弟と向かい合わせに座り食べ始める。

 食べながら楽しそうに話す弟の話を聞く。友達の話や部活の話など、何気ない日常の話ばかりで、話の種が尽きない。僕は相槌を打ちながら聞き役に徹した。

 食べ終わって仏壇に手をあわせて、登校するために玄関から二人で出た。



「ひー兄、今日は学校はどうだった?」

放課後、弟と二人で並んで帰る。

「抜き打ちテストがあった。あの先生、たまに習ってない範囲を出すんだ」

「それは、ご愁傷さま」

「でも、予習してあったからばっちりだったよ」

「抜き打ちで予習って、ひー兄はエスパーかなにか?」

 弟が茶化す。

 帰り道の途中で覚えている地点に来た。弟に話を振る。

「そういえば昨日はありがとう」

「ん?ああボールの事か」

「受けとめて投げ返すなんて、僕には出来ないから危ないところだったよ」

「いいってことよ。ひー兄はとろいからな、こういう事は俺に任せな」

「頼もしいなぁ」


 マンションまで帰ってきた。入り口でおばさま方が井戸端会議をしている。傍を通る時に軽く挨拶する。通り過ぎてから会話が少し聞こえてきた。

「………あのご両親のいないトコの………」

 僕たちは気にせずマンションに入った。


 夜。僕は風呂上がりに自室から窓の外を見た。前回に見た謎の人影を確認するためだ。はたして人影は同じ場所にいなかった。位置が変わっている。

  明らかに、こちらに近づいていた。

 おかしい。前回はまだ今日の筈だから、僕が干渉しない場所で動いているのは変だ。それとも見ただけで干渉した事になるのか?この生活もだいぶ長いが、未だに知らない法則があるのかもしれない。

 僕はもう一度人影を見た。相変わらず目深に被ったフードの中は窺い知れないが、やはりこちらをじっと見ているように見えた。

 僕は不気味に思いつつカーテンを閉めて眠りについた。

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