零位相の中で
いつごん
1
目が覚めるとそこには姉がいた。
「おはよう、ひーくん」
そう言いながら僕の部屋のカーテンを開ける。そして部屋を出て行った。
僕は朝に弱い。エンジンがかかるまでぼーっと部屋を見回す。
漫画ばっかりの本棚、デジタル目覚まし時計、写真立てに入った五人で写った家族写真、箪笥、壁にかかった学生服、いつもの部屋だ。
一度ぐっと伸びをしてベッドから出て、身だしなみを整えて制服に着替えてリビングへ。
キッチンからいい匂いがする。今日の食事当番は姉だ。食卓には二人分の朝食が並んでいた。ごはん、みそ汁、卵焼き、朝食の定番だ。姉と向かい合わせに座り食べ始める。
食べながら楽しそうに話す姉の話を聞く。友達の話やバイト先の話など、何気ない日常の話ばかりで、話の種が尽きない。僕は相槌を打ちながら聞き役に徹した。
食べ終わって仏壇に手をあわせて、登校するために玄関から二人で出た。
「ひーくん、今日は学校はどうだった?」
放課後、姉と二人で並んで帰る。
「抜き打ちテストがあった。あの先生、たまに習ってない範囲を出すんだ」
「それは、ご愁傷さま」
「だから次の抜き打ちテストはしっかり予習してから受けようと思う」
「うむ、頑張りたまえ」
姉が茶化す。
帰り道の途中で覚えている地点に来た。足を止め姉に声をかける。
「ちょっと待って」
「ん?何?」
ばこーん…!
「きゃっ!」
僕たちのすぐ前に野球ボールが降ってきた。近くのグラウンドから飛んできていた。このまま歩いていたら直撃していた。
「危なっ!ひーくん大丈夫だった?」
「うん」
「よかった。そういえばさっき何か言いかけた?」
「いや、なんでもないよ」
マンションまで帰ってきた。入り口でおばさま方が井戸端会議をしている。傍を通る時に軽く挨拶する。通り過ぎてから会話が少し聞こえてきた。
「………あのご両親のいないトコの………」
僕たちは気にせずマンションに入った。
夜。僕は風呂上がりに自室から何気なく夜景を見ていた。ふと見るとマンションの前の道に人影があった。フードを目深に被って顔が見えない。それを見たとき僕は何か嫌な予感がした。それは、じっとこっちを見つめているようにも見えた。
僕は不気味に思いつつカーテンを閉めて眠りについた。
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