夢の枯れた世界で

白と黒のパーカー

第1話 夢の枯れた世界で

 今から丁度百年前、世界から夢が枯れた。

 それは突然にやってきて、なんの前触れも無くただ僕たちから夢を奪った。

 最初それに気づいた人はごく少数で、いかに人類が夢を重要視していなかったのかが露呈したと言うのはどうでもいい話だろうか。


 「夢」

 夢というのが何を指すのかは今の僕達には分からないが、多分なにか実物があるものじゃ無くて概念的なものだったのだろう。

 そうでなければ、失ってもしばらく気づかないなんて事はありえないと思うから。

 昨日図書館で百年前の文献を漁ってみたところで一つも正確な情報なんて無かったし、それほど人類にとって重要なものでも無かったのだと思う。

 

ーだからどうだって良いじゃないかー

 

 頭ではそう思っている。

 でもどうしてだろうか。

 心がそれを求めているように感じてしまうのだ。

 忘れようとしても、不意に胸が張り裂けそうになる事がある。

 目の前がチカチカして喉が乾き胸を掻き毟って呂律が回らなくなる。

 喉元まで出かかっている言葉を無理矢理飲み下した時と同じように痛みを感じる。

 

 人類が夢から興味を失って百年がたった今。

 僕は夢に憧れている。

 手を伸ばしても掴めるのは流れゆく冬の冷たい空気だけ。

 手掛かりなんてありゃしない。

 でも僕はいつかこの夢の枯れた世界で夢を見たいんだ。

 

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夢の枯れた世界で 白と黒のパーカー @shirokuro87

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