Report45: 揺るがぬ意志

 ◇◇◇


「ここは、一通か?」

「この道に入るのは避けたほうがいいな。この先に出口があるから、そこに向かうのはどうだ?」

「いや……見失うかもしれねぇ。このまま追うぞ」


 ラッシュ達がリクセンを追跡し、小学校から暫く車を走らせた時だった。郊外に差し掛かった辺りで、リクセンの乗っていた赤い車が路地を曲がった。

 細い道で、車が一台通れるくらいの幅しかない。一方通行だろうか。この中を抜けて追跡すると、流石にラッシュ達の尾行がバレそうである。

 しかし、追っ手に気付いたリクセンが撒こうとしているとも思われた。逃がしてはなるまい、と二人は車を内部へと進めた。


 細道は途中で幾つかに分岐しているようで、二人の視界にはリクセンの車が見当たらない。枝分かれしているようだが、見通しが悪く、道路にはミラーも付いていない。

 ゾフィが車をゆっくりと進めていくと、左に分かれ道があった。


「ふむ、解散したとばかり思っていたが……目障りなハエだ……」

「……危ねぇ!!」


 運転していたゾフィが慌ててブレーキを踏み、ギアを切り替えた。そして車をバックさせる。視認した左の道から、赤い車がバック走行で突っ込んできたのだ。ラッシュ達は、あわや衝突しそうになってしまう。

 この細道に入るまで、双方の車間距離はかなり空いていた。ゾフィ達はリクセンに気取られぬよう、距離を保っていたのだろう。細心の注意を払って尾行していたつもりであったが、やはりバレてしまっていたらしい。


「どうやらバレちまったみてぇだ、ラッシュ、準備はいいか?」

「心の準備は出来ていないな……」


 ゾフィはアサルトライフルを持ったまま、車から降りる。ラッシュもそれに続く。向かい側から、同じくバタン、とドアを閉めてリクセンが降りてきた。

 リクセンは白髪交じりの男性であった。口髭を蓄えているが、前髪を後ろに撫で付けているからか、むさ苦しい印象はない。もし犯罪者でなければ、ダンディと形容できる人物だったかもしれない。

 ただ、その視線には猛獣のような獰猛さがあった。


「娘の授業参観の帰りを狙ってくるとは思わなかったな。随分と私の事を調べたようじゃないか」

「へっ、俺達だけじゃねぇ。《ブラックドッグ》やタイ警察にも知らせてある。テメェはもう、お終いだ」

「ほう……? 金の力で幾らでも揉み消せるがな。だが、好都合だ。貴様ら害虫をここで駆除しておけば、私の計画も後が楽だからな」


 周囲に人影は無い。後続車両も無い。市内から然程離れていない場所の筈だが、まるで計ったかのように無人であった。

 全てがリクセンの計算なのではないか、と。この辺りの地図や情報に知悉しており、この時間帯に人気が無いのを分かった上で誘い込んだのではないかと、そう思えるような自信に満ち溢れた表情を彼はしていた。


 バックで突っ込んできた赤い車が遮るかのように、細い道を二つに分断していた。ゾフィとラッシュ、対するリクセンは互いに赤い車を挟んで位置する形になっている。

 先手を仕掛けたのはゾフィだ。彼は銃口で線を描くように、アサルトライフルを連射していく。車に穴が開き、窓ガラスが割れ、凄まじい音が響き渡る。

 リクセンは車を盾にして銃弾を防いでおり、透き間からこちらへと攻撃を浴びせてくる。対するこちらは碌な遮蔽物が無く、後退して自らの車の裏へ、隠れる他なかった。

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