Report44: リセット開始

 タイの学校は、大まかには日本と同じである。雰囲気、授業、行事など、差異はあれど、近しいものを感じる。

 小学校に関しては私立、公立、インターナショナルスクールといった区分けが簡易的と呼べるだろう。目の前の小学校は私立で、タイの中でも恐らく学費が高い部類だと思った。

 敷地が広く、建物がしっかりとしている。整備も行き届いている。俺の個人的な見解ではあるが、日本の中堅からお坊ちゃまレベルの私立小学校と大差ないのでは、という印象を受けた。


 あの車椅子の少女、キャロルと初めて会った時、言動や服装から育ちの良さを感じた。やはり、といった所だろう。良い学校に通っていたという訳だ。

 そして俺達は、その父であるリクセンを今から囚縛しようとしている。

 外は非常に好天で、やや暑いくらいの風が吹いていた。学校の周囲に植栽された木々は青々と茂り、葉を揺らし、いよいよ夏の到来を感じさせる。


 今回の作戦部隊は、大まかに四つの班に分かれていた。

 《リセッターズ》は二手に別れ、目標が出てくるのを見張っている。俺はゾフィと一緒で、彼の運転する車の助手席。メガミとロジーは近隣の建物の屋上に陣取っていた。尚、メガミ・ロジーチームにはペイズリーも一緒だ。

 他に数名、《ブラックドッグ》からの援軍が居る。遊軍が一班、それから万が一に備え、リクセンの邸宅付近で待機している班だ。合計四班である。


 この日、学校では授業参観が行われており、リクセンは自家用車で来ている筈だった。メガミ達は俯瞰で状況を知らせて指示し、俺とゾフィがリクセンと接敵する作戦である。

 リクセンが車に乗り込む前に確保できれば良いのだが、乗り込んでしまった場合、車での追跡となる。校内の駐車場に停車している場合は、俺達は入れないので後者の作戦となろう。


 現在、待機時間である。学校のスケジュールを詳細に把握している訳ではない。粗方の時間割は周知しているが、リクセン自身、財閥のお偉方で多忙の身だ。授業参観を切り上げ、途中で仕事に向かう可能性が高かった。それ故、朝から張り込んでいた。


『私だ、動き出したぞ。学内の駐車場に向かっている』

「おうよ。……ラッシュ、行くぜ」

「ああ」


 メガミより通信が入った。時刻は午前十一時、どうやら読み通り、途中で退室するようだ。校内には許可が無いと入れない。俺達は許可証を持っていないので、車で追跡するしかない。

 その辺、《リセッターズ》は融通が利かないものだな、と思う。だが、フリーの傭兵部隊だし、大きな後ろ盾も無い。こういう時、大掛かりな事は出来ないのだ。

 俺達は駐車場の出口付近へと向かい、メガミからの連絡を待った。


『赤の車だ。間もなく出てくる』


 了解、と告げるとゾフィはゆっくりとアクセルを踏み込んだ。俺達の眼前から赤い車が出てくる。リクセンが乗っている筈だが、車内はよく見えない。

 一先ずその後を、自然体を装って尾行した。


『メガミ、ヤツは何処へ向かってる?』

『恐らく自宅だな……』

『自宅? 会社じゃねぇのか?』


 疑問を浮かべるゾフィ。確かに、会社へ向かうとばかり思っていたから意外だった。

 自宅の場所は承知している。ここから車でそう離れてはいない。リクセンは今日一日、オフなのかもしれない。

 メガミからまた連絡があり、「こちらも《ブラックドッグ》の車で追う。あわよくば挟み撃ちにしてやろう」と息巻いていた。

 お互いの居場所はGPSを通じて把握しているから、上手く行けばそれも可能だろう。

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