Report7: 犯罪者の巣窟

 案内されたのは一般的な事務所であった。事務机と椅子が数脚。ソファとローテーブル。それから家電が幾つか。冷蔵庫やポットもある。

 最低限の必需品は擁しているようだ。タイに来る前に見た、あの事務所とは大違いである。

 ただ、空気はあまり良くない。ブーンという音を立てて回る換気扇は、外気を取り込んでいるようだが、時折咳込みそうになる。


「遅かったな、リーダー。こっちは集めといたぜ」


 先ほどの黒人――大柄な男がニヤリと笑った。

 タフそうなスキンヘッドの黒人で、白ブチのインテリ眼鏡をかけていた。身長は百八十センチ弱だろうか。上半身はムキムキボディにタンクトップであり、野生的なのか理知的なのか判別し難い男だった。

 だが、間違いなくパワープレイが得意そうではある。


「ああ、こちらも順調だ。彼は……」


 メガミが首肯し、こちらを振り返った。それで俺に紹介しようとした所で、インテリ黒人が率先して握手を求めてきた。


「ゾフィだ。よろしくな!」

「大森です、よろしく」


 口調は荒っぽいが、軽快且つ豪快そうな男だ。

 しかし、“ゾフィ”って、確か女の名前じゃなかったか? 恐らくコイツも偽名なのだろう。

 口ぶりから察するに、メガミとゾフィは知り合いなのだろう。そう言えば、前に“戦闘のエキスパートは既に居る”って言っていたっけ。この男の事かもしれない。


 部屋にはメガミ、ゾフィ、それから俺の他にもう一人居た。そいつは、ややキョドっていたが、俺の視線に気付くと一歩前に出てくる。


「こいつはカメコウ。盗撮、盗聴の前科がある」

「ど、どうも……グプゥ」


 メガミに紹介されて出てきた男、カメコウとやらが喉を鳴らして会釈する。尚、ゲップなのか、唾を飲み込んだ音なのかは分からない。

 身長はゾフィよりも高く、山のような男だ。百九十から二百センチはありそうである。ただ、縦にだけでなく横にも大きい。巨漢という言葉が相応しい有様だった。

 ただ、顔や髪が脂ぎっており、汚い。見た感じは醤油顔で、恐らく俺と同じで日本人なのだと思われる。

 歳は俺よりも少し下だろう。三十歳前後か。


「デュ……大森さんは何をやらかしたの? ぼ、デュッ……僕は盗撮、盗聴。さっきも言ったけど」


 デュ、とは何なのか。問いたい気分である。デュから始まる言葉はそう多くない。

 デュエル、デュラハーン、デュラ〇ラ……まぁ、それはさておき。

 どうやらデブ特有の呼吸法であるらしく、インターバルを入れないと喋り続けられないらしい。


「どうも。俺は……痴漢です」

「ゲェップ!!」


 汚いな、オイ。

 いやしかし、ここはアウトローの溜まり場だ……。俺も同族なのだから、文句を言える道理は無い。


 カメコウとやらが盛大にゲップを鳴らす。多くの国で、ゲップはマナー違反だと思うのだが……ここタイは違うのだろうか。

 よく見たら空のコーラが机に置いてあるけど、コイツが飲んだのか……?


「カメコウ、ミーティング中に、コーラはよせ。次からでいい」


 見かねたのか(そんな風には見えないが)、メガミが忠言を飛ばした。


「あ、デュ……はい。あなたは?」

「ん、メガミだ。ゾフィから聞いているだろう?」

「あ~、アナタが、デュプッ……成程ね」


 この巨漢、カメコウはどうやら、かなりマイペースな人物のようだ。


 以降、メガミが取り仕切り、ブリーフィングを行った。この部隊の説明や請け負う仕事。この事務所の使い方、ルール。それから初心者の俺にはタイの注意点なんかを大まかにレクチャーしていった。


「ちなみに給料は歩合制だ。仕事については追々、話していく。今日は各自、ゆっくりしてくれ」


 今日は顔合わせだけ、という事らしい。一先ず集まったのはこの四人で、メガミ、ゾフィ、カメコウ、そして俺だ。

 他にも増員する予定があるらしいが、有望な人間というのはそう簡単に見つからないらしい。

 俺の宿は既に用意してあるらしく、なんだったら、この事務所を使ってもいいそうだ。

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