第32話 その後に

陽が沈んで、太陽が山に隠れた頃。


私は、昔、お母さんに貰った手紙を見つめていた。


これは、私が自分の病気の重さを知って、辛くなって泣いちゃった時、次の日にお母さんが私を元気づけるためにくれた。


でも、この手紙はお母さんから直接受け取ったわけじゃなくて、看護師の人を通して私に届いた物。


最初は誰から送られてきたのか分からなくてビックリしたけど、中を見た瞬間、すぐにお母さんからの物だと分かった。


……凄く丁寧に書かれていて、でも、ちょっと丸まった感じのお母さんらしい字。


元気がない時は、いつもこの手紙を読むと、頑張ろうって、頑張って生きようって思える。


……そんな手紙。


だけど、最近はこの手紙を読んでいない気がする。

でも決して元気がある訳じゃない。

皆には明るく振舞って、自分は元気なんだよってアピールする。

そうすれば、皆は私を特別扱いせず、心配をする事もなく普通に接してくれる。


それで、それだけで私は元気になれる。


病気だから、歩けないからって、特別扱いされると迷惑をかけているのかな? って不安になってしまう。


……けれど、そんな事を考えるのは徐々に少なくなっていった。

お母さんやお父さんは昔から優しくて、歩呂良くんや悲羅義くん、それに彩史さんも私を普通の友達として接してくれる。

だから、気にする事は何もない……はずなんだけど。


私が歳を重ねる事に看護師さんやお医者さんが優しくなっていくのが分かる。

昔から、優しいのは当たり前だけど、最近は特に私を『特別扱い』している気がする。


前は、病気の女の子の扱いをされていたけど、今では1人の患者として扱われている。


私だって、薄々は気づき始めている。


――私の死がそう遠くない事を。


でも、そんなのは今更だ。

私は、もうずっと前から気づいている。



――約束ですからね? ネガティブなことは言っちゃいけませんよ?


私が歩呂良くんに言った約束。


私がネガティブになってしまったら、歩呂良くんはどんな事を思うんだろう? どんな顔をするんだろう?

少し気になるような、でも見たくないような、そこまで考えて、私は考える事を止めた。

これ以上、考えたら、考えてしまったら、私は泣いてしまうから。


私は目を瞑る。

眠りにつくのは、本当に一瞬だった。


その時、手に持っていた手紙が右、左にと動きながらゆっくりと落ちていった。


その手紙を誰かが拾い、紙の中を見る。


手紙の内容はたった1文だけ。











――人生は1度きり――

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