第33話 二度目の眠り

気づいたら寝てしまっていた俺は、通常の時間より早く起きた。


外は暗く、太陽がまだ山を昇っていない。


俺は寝ぼけながらも、右手の感覚を頼りに手探りでテレビのリモコンを探す。


棚の上などに手を伸ばしても無く、失くしたのではないかと焦り始めた時、布団の中に小さい物体があるのに気づき、手を入れてみると、テレビのリモコンだった。


「そういえば俺、テレビ消したっけ? 」


いつもなら、テレビを消したら必ず分かりやすい所に置くようにしているのに、今日は初めてリモコンの場所が分からなかった。


多分、看護師さんが消してくれたんだろう。

そう考えた俺は、もう失くさないようにと、リモコンを握る力を少し強めて番組を変える。


テレビを付けようとした瞬間――


「え? 壊れた? 」


電源ボタンを押しても一切反応しないリモコン。

俺はリモコンの電池を入れ直し、また電源を付けようと試みる。

だが、テレビは全く反応しなかった。


何回押しても反応しないリモコンに苛立ち始めた俺は、手から離すように軽く、リモコンをベットに投げた。


すると、画面下にある赤色のランプが緑色に変わり、電源が付いた事を知らせてくれた。


その瞬間――


「何だこれ? 」


画面に映ったのは黒白のノイズと大音量で流れる砂嵐のような音のみ。


その映像が流れた瞬間、不思議さと不気味さが混じって鳥肌が立った。


でも、俺は映像に引き込まれていくような感覚に襲われ、電源を消す事が出来なかった。


――いや、消そうとしなかったのかもしれない。


そのまま時間だけが過ぎていき、1分ほど経っただろうか。


突然、映像が消え病室に静寂が響く。


少し驚いてから、何故か前のめりになっていた体勢を整えようと体を動かそうとした瞬間……


「体が動かない!? 」


俺は体の隅から隅まで、何一つ体の機能が動かせなかった。


体は完全に起きているはずなのに、金縛りのような現象が起こり、さっきとはまるで違う、圧倒的な恐怖心が俺を襲ってきた。


視点を移動させても、その視界からは特に何の情報を得ることが出来ず、今、どんな状況なのか全く分からない。


ふと、視界に入った窓を見て、ガラスに反射した自分を見れば、何か分かるのではないかと思ったが、霊が取り憑いてるなどでもなく、ただ、自殺に失敗した惨めな姿の男が、写っているだけだった。


こんな自分をずっと見ていると流石に嫌気がさすので窓から目を離そうとした時、窓の外から何かが落ちるのが見えた。


「なんだ、あれ? 」


また一つ何かが落ちてきて、窓ガラスに当たり、ゴンッ! という音を立て、更に下に向かって落ちていった。


「……靴? 」


メーカーまでは分からないが、黒色のスニーカーのような物が2つほど上から落ちてきた。


誰かが上から物を落としているんだろうか……。


もし、そうだとしたら、下にいる人に当たったら危険だ。


だが、俺に止める術はない。


今の俺には歩くことが出来ない……が、かと言ってこんな時間に、看護師さんを呼ぶのは流石に気が引ける。それに、金縛りのような現象のせいで体を動かす事が出来ない。


でも、もしかしたら、もう何も落ちてこないかもしれない。


そう願って窓を見つめるが――


「嘘だろ? 今のって……! 」


落ちてくる一瞬で、何が落ちてきたのか分かった。


……少なくとも俺は、それを経験している。



「人……だよな」


性別までは分からないが、手や足のようなものが見えたからすぐに分かった。


けれど、病院の3階以上となると学校の屋上と同じくらいか、もしくはそれ以上の高さになる。


それに、今の人は頭から落ちていった。

例え、頭から行かなくても待ち受けるのは死のみ。


本当なら、俺もそのはずだった。


でも、失敗した事をいつまでも引きずっていても意味が無いし、花優に怒られてしまう。


そんな事を考えていると、俺の金縛りのようなものは解けていた。


この短時間で変な現象が連続で起こったせいで、俺は体力をかなり消耗しており、どっと疲れた。


「あの人は、大丈夫かな……」


急に眠くなってきた目を擦りながら、俺は落ちていった人を気にするが、もう既に意識は朦朧としていた。


寝てはいけない。


誰かにそんな事を言われている気がした。



でも、俺は眠りを優先し、ゆっくりと目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る