第22話 彩史 愛夢救出大作戦
「実の娘を殺そうとしている父親がいるっちゅうことか? 」
「正確には彼女が暴力に耐えられなくなってあちらの世界に行こうとしていることだ」
俺はある程度の彼女のことについて、刑事さんに話した……傷やいじめ、虐待のことを主に。
「なるほど……その父親が本当に虐待しているのかを確かめたいと……」
「まあ、そういうことです。もし父親が何もしてなくても傷は本物だから、クラスメイトがやったということになる。あの傷は相当酷い……」
「そんなにか……」
刑事さんは少し深刻そうな顔をして考え込んでいる。俺はおっさんと思っているが実際は多分もっと若い。多分20歳前半くらいかもしれない……巡査なんだから経験も浅いだろうしな。
「虐待となりゃあ一番は児童相談所……ってことになるが……」
「彼女がいつこの世から去るか分からない状態で、児童相談所なんかに説明をしている暇はない。そんなことをしている間にもし彼女が死んでしまったら父親の罪が重くなる。それは、彼女にとってもあまり嬉しくない。
…… だって暴力を振っていても親には変わりないんだから。寄り道はしていられないかもしれません」
「歩呂良くん……」
「そんなやつにも優しくするなんていいやつやな。……でも、そうなるんやったら手段が限られてくる……」
……たしかにそうなると時間がない状況ではできることが限られてくる……
「あの……巡査さんが直接その人に確認行くのはどうでしょうか? 」
口を開いたのは花優だった。俺は下を向いていた顔を上げたが、
「でもな、それだと上の許可が必要なんや。もし許可が降りんかったら調査はできないんや」おっさんはすまんな、巡査なんかで……と言っていたが話しやすくてこんなことを頼めるのはこの人しかいない。
だから俺はある方法を閃いた。「おっさん、彩史さんの家って分かりますか? 」
「ん……調べたらそりゃ分かるが……」
それなら上の人に確認しなくても、他の巡査にも頼まなくて一人でできる方法があるかもしれない……。
「じゃあ、おっさん。彩史さんの家が分かったら監視カメラをその家の近くの電柱か何かに仕掛けてくれないか? ……180度ほど回るやつを」
「そんなことしたら、俺がなんか怪しまれるじゃねえか」
「だけど、おっさんが仕掛けた監視カメラじゃなければいいんだろ?」
そこでおっさんと花優は「あ……」といって何かに気づいたらしい。
「その彩史さんとやらの隣の家の人、もしくはアパートやマンションだったら隣の部屋の人に協力してもらうっちゅうことやな」
「そういうことです」
その方法では近所の人にとっては迷惑になるかもしれないが一番効率のいい方法だ。
だからその方法には3人とも賛成だった。
まあ、おっさんの手際の良さに全てがかかっているから俺と花優はこの人に任せることになる。
「お願いできますか? 」
花優が深く頭を下げながら頼む……それを見て俺も慌てて頭を下げ頼んだ。しばらくおっさんは顎に手を添えて考え込んでいたがしばらくすると口を開いて……
「その依頼……引き受けたるわ! 」おっさんは親指を上に真っ直ぐあげてグッジョブのポーズをしながら歯を輝かせていた……気がした。俺と花優は見て見ぬふりをして二人で喜ぶ。おっさんは照れたように鼻を啜っていた。どうやら『今の俺カッコイイ』とか思っているんだろう。
「けどな、この依頼が終わったら夢似くんのお話をちゃーんと聞かせてもうからな」
おっさんは嫌な笑顔をして俺の肩を叩く。怖くなった俺は全力で首を縦に振っておっさんと約束をした。
それから少し話しておっさんはそれじゃあ俺はそろそろ帰るわ、そう言って立ち上がった。
俺と花優はお礼を言ってお辞儀する。「おっさん、よろしく頼みました。」
「おっさん、やめい俺は望月や。望月さんや。俺はまだ若いんやから」
それじゃあ、明日にでも報告できることがあったら来るわ。
そう告げて部屋に後にした。少しの間、部屋はとても静かになったがそんなのも一瞬で……
「行っちゃいましたね」
「行っちゃったな」
「いい報告があるといいですね」
「この依頼のいい報告ってなんなんだろうな」
「彩史さんが助かることですよ」
「そっか……」
俺たちはおっさ……望月さんが出ていったドアを見ながらそんな会話した。……花優の顔を見ると少し心配そうだったがすぐに笑顔になって
「彩史 愛夢救出大作戦の始まりですね! 」元気に拳を天井に突き上げて気合いを入れていた。……これは彩史 愛夢救出大作戦というらしい。
いつも元気な花優だが、今日はいつもに増して元気というかはしゃいでいた気がした。
でも、そんな違和感はすぐになくなって俺たちはまた二人で彩史 愛夢救出大作戦について話始める。
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