第23話 受け止められない真実
「お前って彩史さんのこといじめてたのか? 」
「は? んなわけねぇだろ。 他の奴らだよ、なんで俺のせいにされなきゃいけねえんだろよ……ったく担任に行けって言われたから来たもののここ何もねぇじゃねえか。つまんねぇな」
ブツブツ文句を言いながら足をバタバタさせているのは俺のクラスメイトの悲羅義ひらぎ 汰士たいしなんでこいつがここに来ているかというと……遡ること1時間前。
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「今日は望月さん来てくれるといいですね……」
「そうだな……」
今日は彩史 愛夢救出大作戦から3日が経っていた。その間に望月さんは1度もこちらに顔を出していない。
あの人が来なければ俺たちは状況も分からないし、次にすることも分からないため焦りを感じ始め、もしかしたら俺たちのことを放って自分の仕事に専念しているんじゃないか……そんな心配ばっかりしていた。
……あの人を信じていない訳ではないが、たかが子供のやること。
真剣に考えてくれるとは限らない。
だから、彩史さんが来てくれたら……そんな後ろめたい気持ちになっていた。
思ってても口にすれば花優との『約束』を破ることになってしまう。だから口にはしない。花優も日に日に元気がなくなっているから心配なんだと思う。
「うぃーす」突然ドアが開き男の人が入ってきた。俺は望月さんだと思い、「望月さん、何してたんすか! 」そう叫んでいた。
けど、そこにいたのは……
「あぁ? 誰だ望月って……俺は悲羅義だ。陰キャなお前には俺の名前なんて覚えられていないかもな」
俺のクラスのいわゆる陽キャの悲羅義 汰士。あまりいいイメージはなく髪も染めておりヤンキーみたいなやつだ。どんなに隅にいても目に入ってきて気づいたら名前もちゃんと覚えていた。
「なんだ、お前か……その陰キャの俺に何のようだ。何も出来ない怪我人にちょっかいでも出して笑いに来たのか? 」
「ちげーわ、お前に用なんてねぇのに担任が行けって言うから仕方なく来てやったんだよ、感謝ぐらいしろ。……ったくお前に使う時間なんてねぇ予定だったんだけどな」ブツブツ呟きながら自分で椅子を用意して、ちゃっかり座っていた。
どうやら担任の希翁先生に頼まれて来たらしい……だけどなんでこのタイミングで……俺は少し考えてから悲羅義に質問した、そして今に至る。
「じゃあ、なんでお前が先生にここに来いって言われたんだよ……」
「だから、知らねーよ……担任に聞けや。てかそんな元気なら怪我も治ってんだろ」
「いや、元気だからって別に怪我は治んないわ、もしかしてお前バカなの? 」
「うるせーな……お前もバカだろ」
どうやらバカを否定はしないらしい。そんなバカ二人の醜い争いはすぐに終わり悲羅義は、はぁ〜と大きめなため息をついていた。
「お前と喋ると疲れるわ」
「それはこっちのセリフだ」
俺は絶対こいつと仲良くできない……前からそう思っていたが改めてそう思った。それから少しの間、沈黙が続いた。……本当にこいつ何しに来たんだよ。そう思って口に出そうとした時……「お前って委員長と付き合ってたの? 」……突然、悲羅義がそんなことを言ってきた。急にふざけ始めたかと思ったが顔は真剣で本気のようだった。
「な、なんだよ急に……付き合ってないよ」
「じゃあ、なんであの日一緒に……その……」
そこで悲羅義が気まずそうにしてから決意を決めたように……
「なんで、あの日……同じ日に自殺を図って……」
「ちょっ、ちょっと待て。どういうことだ? 」
「彩史さんだけが死んで……歩呂良、なんでお前は生きてるんだよ」
「え? 」
一瞬……いやかなり長い間、時間が止まって俺の思考も停止した。彼女が自殺を図った? 俺と同じ日に? しかも死ん……だ?
俺が自殺を図ったのは4月15日。
今はそれから1ヶ月以上が経ち、5月29日。
彩史 愛夢が俺に会いに来たのは……。
俺はもう、それから何も考えられない。
自分の呼吸が荒くなっていくのが分かる。
俺は必死に顔を抑え心を落ち着かせようとする。彼女の声が、姿が、俺の脳裏を通り過ぎていく。
「歩呂良くん! 望月さんの声が聞こえます! 」花優の声が聞こえてからすぐに……
ガラガラッ……。
勢いよくドアが開けられ俺たちが3日待っていた望月さんが走って病室に入ってくる。
「おい……! 彩史 愛夢って子。お前と同じ日に死んだんじゃないのか! 」
息を上げながら必死に俺に訴えてくる。
望月さんが上手く喋れてないのか。
それとも俺の脳や耳が機能していないのか。
全く聞き取ることはできなかった。
何も考えられなかった。
何も……考えたくなかった。
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