第20話 先生と生徒
今日もまたいつも変わらない1日がやってこようとしてた。
現在の時間は昼の1時。
俺と花優は昼食を食べ終え午後になったら来るという希翁先生を待っていた。
俺から先生を呼ぶことは初めてだったので少し緊張していた。
頭の中では(怒られんのかな? てか彩史さんについて何か話してくれるのだろうか)そんな心配ばっかりだった。
そんな俺の様子を見てか、花優が「どうしましたか? 」と心配そうにこちらに気を使ってくれた。
俺はありがとうといって体内にある二酸化炭素を全部出す勢いで息を吐いてから、片手だけで顔を叩き気合いを入れ、心を落ち着かせる。
それからすぐにドアの方から「失礼します」と言う声が聞こえて希翁先生が入ってきた。
俺はすぐに近くに置いてある椅子を俺と花優のベットの間の少し広い空間に置き「こんちは」とだけ挨拶をした。
先生もこんにちはと言い椅子に腰を下ろす。「歩呂良くんから『来て欲しい』なんてどうしたの? 」
最初に口を開いたのは先生だった。「ちょっと用事があって……」
俺はそう言って息を吸い……
「俺のクラスの委員長……彩史 愛夢さんについて何か教えて貰えないでしょうか? 」
俺は軽く頭を下げる。
花優も慌てて頭を下げ二人で返事が来るのを待つ。
先生からは戸惑いの声が聞こえてきたが俺たちは頭を下げ続ける。
「ま、まず頭を上げて……どうして急に彩史さんのことを……」
先生はすごい驚いた声でそう言った。
……俺は少しずつ顔を上げて
「昨日、彩史さんが俺たちの所に来ました。……詳しい話はできませんが彼女は俺たちにいろんなことを教えてくれました。……学校や家でのこと。……それを聞いて俺は……俺たちは彼女を助けたい、そう思いました。……どうか彼女の知っていることを教えてください。先生、生徒の関係ではなく、彩史さんのためになりたい人同士として」
俺はそう言ってもう一度頭を下げる。
もしかしたら何も教えてくれずに帰るかもしれない。
これは彼女のプライバシーに関わる問題だから……先生の顔は見えないけど悩んでいるようだった。
俺たちは返事を待って頭を下げ続ける。
すると、「あの子にそこまで話す友達がいるとはね……」そう呟いてから、
「……このことは上の人、つまり教頭や校長には言っても信じてもらえなかった。……ずっとあの子だけが抱えてきたことだけど、あなたたちには言ってもいいかもしれない」
俺たちは顔を上げ二人で軽くガッツポーズをした。
それを見ていた先生は「問題無さそうね……これなら安心だわ」何のことか分からないがそう呟いていた。
それから先生は真剣な表情になり話始めてくれた。
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彩史 愛夢さん。私が担任を持って2年目になる生徒。あまり明るい性格ではないため友達と喋っているイメージはない。
だけれど、どんなことがあっても笑っているような子で他の表情がよく分からなくてちょっと不気味。
でも、勉強はできるみたいでいつもクラスのトップに立っていた。
そんなある日、2年生の始め……生徒会での役員決めで彼女はなぜか学級委員長に推薦された。
……周りからは笑い声、まだ決まってもないのに喜んで拍手をしている人。
いろんな人がいて私は止めようとした時、彼女は「やります」そう言って席を立った。
クラスは更に騒然とし、クラスの半分以上から拍手が湧き起こった。
……私の声は誰にも聞こえないまま一時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
私は彼女はあのままじゃ駄目だと分かっていた。
いじめられているのを知っていたからだ。
……彼女が私に相談しに来た訳じゃない。
いじめ保護センターという所に勤めている友達から聞いた話では彼女はクラスからいじめられており服で隠されている場所に怪我を負わされているのだという。
でも、これを直接本人に言うと私の友達が情報提供を私にしていたことがバレてしまう。
それに私はこの目であの子がいじめられている場所を見た訳ではないから何とも言えない。
そう……だから私は行動に出ることにした。
彩史さんには放課後保健室に呼び体をチェックさせてもらうと伝えると彼女は嫌な顔せずに受け入れた。
保健の先生には保健室からしばらくの間出てもらい、保健室には私と彩史さんだけになった……私は学校生活について少し話した後に彼女に服を脱ぐように言った。
彼女はすんなりと服を脱いだ。
……私が見た物は想像もつかないものだった。
ドラマなんかで見る傷跡で私は思わず口を抑える……とても女の子の体とは思えなかった。
でもこれは高校に入るより前……傷の大きさからしてもっと前に受けた傷だと思った。
……ふと彩史さんの家に家庭訪問に行った時のことを思い出した。
彼女の家は母親がいなく父親一人で育てているらしい。
でも、見た目は優しそうだったあの人が虐待をしてるなんて考えることもできなかった。
それにまだ決まったことじゃないし……証拠もない。
もしかしたら生徒がやったものかもしれない。
……私はその傷を見てからは何も喋らなかった。
喋ることができなかった。
彩史さんも何も喋らない。
私は合図だけ出して彩史さんを帰らせるようにさせた。……それから私はそのことを校長に言う。
だが『そのためだけに保健室を使ったのか』と怒られるばかりで相手にしてくれない。
……私は自分のクラスだけにいじめアンケートを取った。
分かっていたことだがクラス全員の紙は空欄だった。証拠も掴めないし、実際に見た訳でもない。
……私にはどうすることもできなかった。……教師なのに。
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「あなたたちが彩史さんのために何かしてくれると言うのなら、私もそれに力を貸したいと思う。1人の教師として。あの子の……先生として」
希翁先生も彩史さんの細かいことは何も知らないらしい。
だから彼女の力になりたいと……いじめをなくそうと先生なりに頑張ったようだ。
「俺達もできることから見つけて彩史さんが幸せな学校生活を送れるようにしてみます。……と言ってもこの状態じゃできることは限られますが……」
俺は骨折した手と足を見ながら言う。
「ふふふ、歩呂良くん少しは変わったわね。まずは歩呂良くんが幸せにならないと」先生は笑いながら俺に言ってくる。
俺は呆れながらも適当に流しておいた。
「有馬さんもお願いね」
「任してください! 」
そんな会話をしてから先生は仕事があると行って帰ろうとした。
「先生って結婚してるんすか? 」俺は歩き始めた先生にそんなことを聞いた。
「いいえ、そんな相手どこにもいないわよ。悲しいことにね」と左手を見してくれた。
俺は礼を言うと先生は帰った。
俺の緊張はすっかりなくなっており今の俺たちに出来ることを考えていた。
彩史 愛夢、彼女は今自殺をしたいと考えている。
それなら自殺志願者の俺にできることはなんだろうか?
自殺志願者同士考えることは一緒。
だが言葉だけで彼女のしようとしていることを止められる訳がない。
だから俺は1つの案を考えている、
彼女を助けられるかもしれない1つの方法を。
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