第19話 彩史 愛夢の秘密
あの委員長が帰ってから数時間が経って夜9時頃になった。
そんなに時間が経ったというのに俺と花優は一回も会話をしていない。
……恐らく喋ったり、会ったことがある人がもし死んだと分かったら怖いのだろう。
そんなのは誰にでもある事で……俺はもう経験済みだから何とも思わなかった。
ふと窓の外を見る。
今日はくもりで上は真っ暗、それに比べて下は光がたくさんあり輝いて見えた。
でも小さい窓ではこれしか分からない。
俺はやることを見つけることができずにため息をつく。
「歩呂良くん……起きてますか?」
ふとそんな声が聞こえた。
カーテンを開けると花優がいてこちらに気づいて笑って手を振ってくれる。
俺も笑って手を振り「ああ、起きてるよ」という。
「彩史さんの表情から『死』を考えてる感じはありませんでした……本当に『死にたい』と考えているのでしょうか……」
「そうだな……たしかにずっと笑っていてとても『死にたい』と思っているやつには思えなかった……でも死を望んでいることは少なからず分かる」
俺たちは昼前くらいに来た彩史さんについて話した。
俺も花優も感じていることは一緒で、あの人が本当に死にたいと思っているようには見えなかった。
……でも俺には彼女が死にたいと思っている理由の一つに少しだけ気になる所があった。
「あの人、父に何かされてるようなことをいっていただろ」
「ああ、はい……たしかにそんなようなこと言ってました」彩史さんは明らかに俺たちに何かを隠している。
まあ、友達でも何でもないやつにそこまで知ってもらう必要もないのだが。
「彼女は『察してください』と俺たちに言っただろ? あれは多分……言いたくなかったから見せようとしたんだと思う」
「え……どういうことですか……」
花優は不思議そうにこちらは見ていた。
多分花優は気づかなかったんだ。
あの人の行動に……
「彼女は多分……いや確実に父に虐待を受けてる」
「私も……それはなんとなく思ってました」
あれは誰が聞いても虐待だろう、と考える。
でも、問題はその言葉じゃなくてそれからの行動だ。
「彼女は花優がカーテンを開けて出てきた時、ビックリしすぎて倒れそうになってた……でも倒れなかった。
それはどうでもいいとして……倒れそうになった時の顔だ。
彼女はその一瞬だけ目を思いっきり瞑っていた。
誰だってそんなことがあれば目を瞑るが彼女は何か違った気がした。
何か痛むような……何かに怯えているような……まあそれは意図的にやったものじゃないと思うがそれからだ
……あの人は帰る時、俺たちに見せるように服を少しだけ上にあげたんだ」
「えっちですね……」と呟いているやつがいたが「見たくて見たわけじゃない」と言ってやった。
実際見るつもりなんてなかったし……
「まあ、それで背中を少し見たんだが……」そう言って俺は見たものを思い出す。
とても見て得するようなものではなかった。俺は少し息を吸ってから
「彩史 愛夢。あの人の背中には暴力によって傷がいくつもある。
俺は1部しか見てないがあれは相当な虐待だ。
背中はほぼ青色でクレヨンでも塗られているかのような色をしていた。
痣があったり今にも血が出そうな赤い部分があったり……顔に傷がないのはバレないようにしているからだろう」
俺は思ったことを花優に言った。
あれは通報すれば一瞬で捕まる。
でも捕まってないということは彼女も警察には言ってないのだろう……父が怖くて。
「そんなに酷かったんですか……彩史さんは大丈夫なんでしょうか……」俺の話を聞いて花優は彩史さんの体調が気になったのだろう。
「でも、あんなに元気なら大丈夫だと思うぞ」
「そ、そうですかね……」
「そうだよ」
そんな会話をして花優を安心させる。「まあ、どうせ自殺する前にこっちに顔くらい出すだろ」
『今日は』帰りますって行ってたしな。
「そうだといいんですけど」すこし落ち込んだ表情をしながらそう言う。
俺はそんな花優の表情を見てから気になることがあり
ある人に彩史さんのことを聞いてみたかった。
だから看護師を呼んで明日その人が来れるか頼んでみた。
「なるほど……その人に聞けば何か分かるかもしれませんね」
花優も首を縦に振りながら頷いていた。
明日はちょうど学校の創立記念日……だった気がする。
だから仕事軽くなるはずなので来れると思う。
「だろ?先生ならあの人のことを少しでも教えてくれるだろ」後は連絡と明日が来るのを待つだけ。時間は夜10時頃……俺たちは顔を見合わせて
「寝るか」
「寝ますか」
そういって電気を消し眠りにつく……前にカーテンを閉める時に「おやすみなさい」と2人でいいあってカーテンを閉める。
そうやって今日に幕を閉じる。
今日で俺が来てから4週間ほど。つまり1ヶ月が過ぎようとしていた。
ここにいるのも後1ヶ月か、2ヶ月ほど……この時間の感覚だとそんなのもすぐに来るんだろうな。
そう思ってから俺は何も考えずに眠りにつくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます