第18話 賑やかな時と静かな時
彼女はにっこり笑って、自殺したいです。
たしかにそう言っていた。
「それはまた……なんで自殺なんか……」
そんな大きな悩みをなぜ俺なんかに相談しに来たのか。
仲のいい友達か親にでも言えばいいのに。
「私……生きてることが辛いんですよ。学校で委員長をやってるからって……こき使われたり、「お前調子乗ってんな」とか言われたりしていじめられたり……父には・・・あまり言えませんが、まあ察してください」
彼女は少し泣きそうになりながら相談にのっていただけませんか?と言ってきた。
まあ、相談に乗るだけなら……「話だけなら聞くよ、どうせ暇だしな」そう思って話を聞くことにした。「花優も……隣のベットの人も一緒に聞いてもいいか?」
そう聞いて、彩史さんに大丈夫ですよ。話合みたいですねと言ってくれたので
俺は「だってよ〜」と隣のベットに呼びかけた。
花優はカーテンを閉めていたので少しだけ開けて「あ、ありがとうございます」と言って顔を覗かせた。「え!?女の子ですか!?」彩史さんはすごいびっくりしたのか後ろに倒れそうになってた。
「そんなにびっくりすることか?」疑問になって聞くと「だって……こんなに可愛い人と歩呂良くんが付き合ってるだなんて……」
「は!?」
俺は思わず声を出してしまった。
この人は勝手な思い込みが激しすぎるし、誰もそんなこと言ってないのに……この人の頭の中は妄想でできたお花畑じゃないか。
「んな訳ねぇだろ!友達だよ!」そう言ってやった。
そ、そうですか失礼しました。と彩史さんは頭をペコペコ下げてた。「歩呂良くんが……私のことを友達……と言ってくれた……」
隣からは凄い喜びの声が聞こえるが無視をしておこう。
「……ッ!やっぱり『友達って言ってくれた』って言ってるってことは付き合って……」
「ややこしくするな!」俺は喋ってる途中に口をはさんで手をぶんぶん振って言葉を遮った。
今日はとてもうるさくなりそうだな……そう思った。
それから2人を落ち着かせて相談とやらを聞くことになった。
「さっき言ったとうり私はどのような死に方がいいのでしょうか?」
彼女は落ち着いてからゆっくりと話し始めた。
話し合いみたいな感じなら質問を一つしたかった。だから俺は手をあげてはーいと言って、
「それって死ぬこと前提で話すのか?……『自殺しない』っていう選択肢はないのか?」
話す前提について俺は質問した。
「今のところは自殺をする前提で話させてもらいます」
彼女は笑ってそう言った。
「じゃあ死に方についてだが……自分はどんな方法で死にたいんだ?痛みを感じながらじっくり死んでいくのか。痛みを感じずに一瞬で消えるように死ぬのか」
俺は分かりきった質問を一応してみる。
死ぬなら痛みを感じずに死にたい。
俺だってそう思ったから飛び降り自殺を選んだんだ……実際痛みはなかったが気を失っただけで今こうして生きている。
彼女はうーんと少し考え込んでから
「死ねるなら……この世界からいなくなることができるなら私は手段を選びません」
まあ痛いのは少し嫌ですけど。と付け加えてからそう言った。
「ならなんで俺に死に方を聞いてるんだ?」
どんな死に方でもいいなら勝手に自殺を図ればいい。
首吊りでもいいばすだ。家でも出来るしな。そう思っていると
「まあ、そうなんですけどね……やっぱり飛び降り自殺を図った人に感覚などを聞いた方がいいと思いまして……」
彼女はそう言ってから俺の方を見る。
「……なるほど俺が飛び降り自殺を図ったことはもう知っていると……」
学校では俺のことは『屋上から落ちた』とだけ伝えてあると思うが当然、自殺を疑うに決まってる。
友達もいない俺が屋上から落ちるなんてありえないしな……それに普段屋上には入れないようになっている。
「それで、自殺志願者の俺に何を聞きたいんだ?」
俺はため息をついてから彼女を鋭い目で見た。
「飛び降りするならやっぱり学校はやめた方がいいですか?」
彼女は頭がいいから学校の高さからでは頭からいかないと確実に死ぬことはできないし、
風のせいで体が動かせなくてもし顔からいったら少し痛みがきてから死ぬことになるかもしれないということが分かるのだろう。
そんな考えもせずに早く死にたがってた俺は本当にバカだと思う。
「学校はやめた方がいい。……そうだな、もっと他に高いビルなんかの方がいい……確実に死ねると思うしな。……足を空中に置いてから落ちた時は怖くて何も考えられない。頭が真っ白になるよ。俺はそうだったが人によっては走馬灯を見れるかもしれないな。」
経験者から言えるのはこれくらいしかなかった。
俺は人の助けになることなんてできないんだ。
それでも彼女は俺にありがとうございますとお礼をいって
「実は飛び降りがどんな感じか知りたかっただけなんです。私……もう少し時間が経ってやり残したことをやってからいなくなろうと思います」
やり残したことは内緒ですけど
そう言って彼女は立ち上がった。
「帰るのか?」そう言うと彼女はにっこり笑って「はい、今日は帰らせてもらいます」そう言ってドアの方に歩いていった。
「あの……」
その時花優が呼び止めて
「これから死ぬことを考えているのに……なんでそんなに笑っていられるんですか?」花優も彩史さんがここに来てからずっと笑っていることが気になったのだろう。
彩史さんは立ち止まって
「ある人に『どんな時でも笑っていろ、それがお前のためになる』そう言われたからですね。」
それだけ言うとそれでは。と言って彩史さんはドアを開け「失礼しました」と言って帰った。
……突然の出来事すぎてなんだか急に疲れた。俺は少しため息をついてからゆっくりと目を瞑った。
目を瞑る前に花優の方を見ると花優は黙ったままずっとドアの方を見ていた。
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