第13話 母

あれから俺と花優はいろんな話をした。

もちろん罰も受けた……変顔10連発を。


そして1日1日と、日が過ぎていき俺が来てから2週間ほどが経っていた。


今日も花優と時間を忘れていろんな話をした。


「歩呂良くん。ここって実は3階なんですよ?知ってましたか?」花優は両手を腰に当て、得意げな顔でそう言ってくる。


まあ、寝ながらだからあんまり見えないんだが……

「俺はてっきり4階くらいかと思ってたよ」と返す。

実際窓からしか見えないし看護師の話とかはあんまり聞いてないから聞き逃している可能性もあるが…。

いつものようにくだらない話をして盛り上がっていた。

そのとき……「花優ー。入るわよー」そんな声が聞こえてドアが開く音がした。

俺は看護師かと思っていたが花優のことを呼び捨てにしていたのですぐに看護師ではないと分かった。


誰か分からないままでいると、「お母さん…!」そう言ったのは花優だった。……どうやらお母さんが来てくれたらしい。


俺は邪魔するのも悪いな…と思いカーテンを閉める。

(こんな時こそゆっくりさせてあげたいからな。)そう思って一応寝たフリをする。

「花優〜。元気だった?具合悪くなったりしてない?」

「全然大丈夫だよ!私はいつも元気いっぱいなんだから!」そんな声が聞こえる。

目からの情報は何もないのでよく分からないがとにかく花優の口調はとても明るくて、元気。


それに比べて花優の母はどこか暗い感じ……多分仕事か何かで疲れているのだろう。


それでも花優に会いに来てくれる。いい母親だな…と思った。


…俺の両親も生きていたらお見舞いに来てくれるのだろうか……そんなことを考えて胸が苦しくなった。

「今日はりんごを持ってきたんだけど今切るからちょっと待っててね」


「今日はりんごか〜。ありがとう!」そんな花優の明るい声が聞こえてきてから、包丁でりんごを切っているような、音が聞こえてきた。


俺はそんな二人の幸せな時間がただ過ぎていくのを待っているだけだった。


……少し経ってからりんごの皮を剥き終わったのか、「できた。…はいどうぞ」と言う声が聞こえてきて机にお皿が置かれる音がした。


「ありがとう!いただきます」手を叩く音がしてからフォークらしきものがりんごを突いてお皿に当たる音が聞こえて「このりんご、美味しい!」と花優がほっぺを触りながら言っている。

……そんな情景が浮かんでくる。


それからは静かな時間が続き花優の咀嚼の音だけが聞こえていた。

やがて花優の「ごちそうさまでした。とってもおいしかった!」という声がして「そう、それならよかったわ」…顔は見えないが優しそうな声なのにやっぱり少し暗い感じがする。


それから、少し親子で話した後に「それじゃあ、私はそろそろ仕事に戻らないといけないから帰るわね。」

といって座っていた椅子を片付ける音がした。


(意外と帰るの早いんだな……)そんな事を考えていた時……


「あのね、お母さん。私……」花優が母を呼び止めて…

「どうしたの?」と母が返す。


すると……「私、外に出たいの……出ても…いいでしょ?」

花優がそう言った途端…空気が冷たく……さらに暗くなった気がした。


(あいつ……!俺の約束を覚えてくれてたのか……)俺は覚えてくれていてすごく嬉しくなった……けど母の返事はなかなか帰ってこなかった。


2分ほど経っただろうか……母親は「花優……」呆れたように、悲しそうにそう言ってから…





「ええ……いいわよ。ただしそこの男の子と一緒にね…?」そう言ってこちらに歩いてくる音がして……


「初めまして。花優の母です。歩呂良くん…でいいのかしら?ここに来てから娘と仲良くしてくれてありがとうね。」

明らかに俺のベットに向かって喋っていたので

俺はカーテンを開ける。


目の前には花優の母親らしき人がいた。(俺が来てから一回も会ってないのになんで俺の事知ってるんだ?)

頭の中は驚きでいっぱいだった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る