第12話 友達
いろんなことを考えていたら1時間ほどが経ち、時間は10時を回ったところ…外はさらに暖かくなったのだろう。
部屋はさらに明るくなり布団なんてかけていると焦げてしまいそうなほど暑くなってきた。
俺は「よいしょ」と声に出しながら右手と右足を上手く使ってゆっくりと布団から体を出して軽く伸びた。
「歩呂良くん起きてたんですね。おはようございます」花優の声が聞こえた。
声は寝起きの声ではなかったので俺より先に起きていたのだろう。
俺は軽く体を起こしてカーテンをめくる。
「ああ、おはよう」すると花優もカーテンをめくっており、俺がカーテンをめくるのを待っていたかのように俺の顔を見て笑い始めた。
「ん?どうした?顔に何かついてるのか?」と聞きながら俺は自分の顔を触って何かあるか探る。
「はい!……歩呂良くんの目と鼻と口がついてます」花優も自分の顔のパーツに指を指しながらそう言う。
「そのパーツがない日があったら困るな」そんなことないと思うが……。
そんなことを言って二人で笑い合う。
朝起きておはようといってご飯を食べてこんなくだらない話をしておやすみといって寝る。
そんな日常が俺はだんだんと好きになっていった。
でも、そんな日常は3ヶ月ほどしか続かない。
そう考えると少し寂しい気がした。
だから俺は……
「なあ、花優。」俺は頭に手をやって軽く掻きながら花優の名前を呼んだ。
「なんでしょうか?」首を傾げて花優がこちらを見る。
俺は「すーっ」と息を吸ってから
「俺が退院してからもここに来ていいかな?」
断れるのが怖くて窓の方を見てしまう。
(断られたらどうしよう……)頭の中ではそんなことばかり考えていた。
でも、そんなことを考えているのはほんの一瞬で……
「本当ですか!?歩呂良くんが来てくれるなら私、本当に嬉しいです!」
俺が聞くと花優は子供のように手をバタバタさせながら喜んでいた。
そして、なぜか両手の人差し指をクルクル回し初めて……「あの…本当にいつ来てもいいですから。それに私は歩呂良くんがいなくなったらずっと暇なので…」
少し照れくさくなったのか「えへへ…」と笑って人差し指を回すスピードがものすごく早くなった。
そうだ。俺がいなくなったら花優はこの病室に一人になるのであって……。
「俺さ、友達いないからさ…いつでも暇だから…!だから…学校が終わったらすぐに来ても……いいかな?」
話してる途中で恥ずかしくなって声のトーンをだんだん下げる。
花優の顔を見るのも恥ずかしくなってしまい自分の鼻を触る。
「え…?友達がいないって……私達…もう友達ですよね?」
花優は首を傾げて不思議そうにこちらを見ていた。
「そ……そっか俺達もう友達だよな…ァハハ」
俺は中学校の頃から友達を作ってないから、友達が何なのかを忘れてしまっていた。
けど……花優は今、俺を『友達』って言ってくれた…(俺が?こんな子と?友達になっていいのか?)頭は疑問でいっぱいで変な笑い方をしてしまった。
花優は「はいっ!」と言ってにこにこしていて、もう人差し指は回していなかった。
「友達ってどうやったら友達って言えるのかな?」俺は無意識にそんなことを花優に聞いていた。
花優だって病院にいるから友達なんていないのだろう。
俺の質問に「う〜ん」と考えこんでから「あっ!」と同時に右手を握って左手に「ぽん」と音が鳴るくらいに叩いてから……
「私もあんまり分かりませんが、友達って作るものじゃないんですよ……きっと。
作る、作らないじゃなくて、話す、話さない…だと思います。
だって、私たちだって話してるだけでもう友達になってます。『友達になって?』なんてお互い1回も言っていません。
だから……友達は話すだけでもう友達になってるんですよ。
もしかしたらただの『仲のいい人』ということになっちゃうかもですが。」
……何も返す言葉がなく、俺は黙って聞いていた。
花優の考えは俺がいくら考えても出てこなかったものだった。
……どうして花優はいろんな考え方ができるんだろう…
「花優は凄いんだな…俺にはそんな考え方なんてできないよ。」
俺は花優に言うのではなく、自分に…あるいは誰にも言っていないようにそう呟いた。
けど、花優は「これくらい誰でも考えられますよ!……それより今日の歩呂良くんはネガティブなことばっかり言ってます。1回くらい何か罰を与えないといけませんね…!」
そう言って花優は「罰は何にしようか……」と呟きながら必死に罰を考えていた。
俺はその花優の横顔を見て、何故か笑みが零れてしまった。
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『はい、もしもし勇最病院です。』
『あ、もしもし有馬 花優の母ですけど』
『あー!こんにちは有馬さん。花優ちゃんは元気ですよ〜』
『そうですか、あの…明後日に時間が取れたので花優の顔を見に行こうと思って連絡させてもらいました。』
『そうなんですね〜、分かりました。お待ちしております。花優ちゃんも喜ぶと思いますよ』
『ありがとうございます……それでは明後日伺います。それでは失礼します。
『あっ!』
電話は切れてしまった。『男の子がとなりのベットに来たって言おうとしたんだけど……まあいいか』
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