第11話 二人の気持ち
日が登っていた。時計を見ると午前8時頃、
この病室の位置から太陽はあまり見えないけど光が差し込んできて、この部屋を「この光だけで充分だよ!」とでも言うように眩しく照らして…でもとても静かで……床が黒と白に別れているようで……まるで歩呂良くんが私が辿るはずだった真っ暗な道を照らし始めたかのように………。
昨日の夜のことを思い出す。
私は生まれて初めて「外に連れて行ってやる!」と言われた。
本当に嬉しくて涙を流してしまった。
私は滅多に泣かない。
泣くことなんて起こらないし、泣かされることもない。
だけど私は嬉し泣きをしてしまった。
自分でも泣いてから目の周りが濡れていることに気づいた。
でも、歩呂良くんを心配させてしまったことはとっても反省している。
……けど正直に言うと心配してくれて嬉しかった。
そんなことを思ってくれる人なんていなかったし思っていても皆、気を使って言葉にしてくれない。
だから…言葉にしてくれた歩呂良くんはほんとうに優しい人だと思った。
本当に…
本当に……。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
私は1度だけ外に出たことがある。
でもそれは、赤ちゃんの時で記憶になんて残るはずがない。
だから私は外のことはよく知らない。
でも、私はこれから外にでれるチャンスがある…歩呂良くんに作ってもらったチャンスだ。
絶対に外に行って歩呂良くんと歩呂良くんが好きな景色を見たい。
だって……海が見える公園の夜ってすごくロマンティックな気がする……そんな景色を二人で見れたらすごい楽しそう……
そんなことを思って病院を見渡す。
やっぱり静かで…どこか寂しい……そんな感じがしてたのに…歩呂良くんが来てからは変わって見える。
天井も床もこの部屋の空気も全てが明るくなった……そんな気がする。
歩呂良くんは自殺したいと言っていたけど、悲しむ人はきっとたくさんいる。
当然、この私だって悲しい……だから必死に生きる理由を探して欲しい。
例え、見つからなくても私には歩呂良くんが隣にいてくれるだけで嬉しい。
朝起きて考えていたことはそんなことだった。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
目が覚めた。時計の針は8時30分を指していて太陽の光が俺のベットを照らして布団はとても熱かった。
まだ夏じゃないというのに布団をかけていると暑くて仕方なかった。
ふと自分の骨折した手と足を見て力を入れてみる。
でも、痛くて自然と力が抜けてしまう。
骨折をしたのは初めてで骨折をした瞬間はとても痛いらしいのだが気を失っていたため痛みがなかったのは不幸中の幸いだったのだろう。
……もし、この怪我が治ったら俺は花優を公園まで連れていく。
昨日の夜の約束を思い出しながらそう思った。
俺が花優を外に連れて行きたい理由はたった一つ…
花優の病気が悪化していつ死んでしまうのか分からない……ということだ。
花優は「ここまで生きてきたことは奇跡」と言っていた。
つまり花優の人生はそう永くない……多分自分でも薄々気づいてはいると思う。
だから俺は花優の望を叶えてあげたいと思った。
それに俺のお気に入りの公園から見える景色はとても綺麗で時間を忘れるくらいだ。
そんな景色を2人で見れたら……そう考えただけでもとても楽しくなってきた。
そんなことを朝起きて最初に考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます