第10話 少年からの約束
「じゃあ、俺のお気に入りの場所があるこの街のことを話させてもらうよ。」
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俺がこの街に来たのは4年ほど前。
自分の家から逃げてきた時だった。
小さい頃に1回だけ実家に行ったことがあるがそれだけだけだ。
だからあまり記憶にないが母から家の場所までは教えてもらっていた。
ここ、勇最街ゆうさいがいは俺の住んでた夢絶町なんかよりずっと都会だった。
ビルが立ち並ぶ所もあれば林に囲まれた公園なんかや、少し大きな神社なんかもちらほらとある。
もう少し遠くに目をやれば山の麓あたりに古い民家なんかもたくさんありこの病院の反対側には海がある。
田舎なのか都会なのかよく分からないくらい建物や自然がある。
「この街の好きなところ」と聞かれると思い浮かぶ所が1つだけある。
そこはこの病院から20分ほど歩いた所にある公園だ。
この部屋の窓からは見えないが反対には海があり、俺がこの街に来てからは夜中にその公園に行ってよく海を見ながら考え事をしていた頃があった…周りには家もないし人通りも少なくて人に邪魔されることは滅多にない。
潮風が心地よく、夏なんかは涼しくてとても気持ちのいい場所だった。
まあ、そこにずっといると髪の毛がベタベタになってしまうんだが……。
それでも、その場所はお気に入りの場所と言ってもよくて……生きていてよかった……。
そんなことを思えるくらいに。
「俺はその場所が1番好きだ。そこくらいしか思いつかないなー…すまん。」
「な、なんで謝るんですか?素敵な場所じゃないですか!私も1度行ってみたいなー…歩呂良くんのお気に入りの場所。」
「いつか連れて行ってやるよ。車椅子でも、おんぶしてでも……」
俺は花優の望を叶えてあげたいと思った。
俺が花優にしてあげられることなんてそれくらいなんだから……。
「約束だ。花優が俺にした約束は守るし…俺が花優にした約束も必ず守る……だから…」と言ってちょっと照れくさくなってきた。
けど…「俺の怪我が治った時…花優を外に連れてく。その約束でいいか?」
言ってから恥ずかしくなってきて、花優の顔があまり見れない。
断られたらその時はその時だ。そう思っていると…
「………私…外には出れません。」
今、一瞬何を言われたか分からなくなった。
外に出れないって?
なんで?
ちょっとくらいなら出てもいいんじゃないか?
車椅子だってあるし……出れない訳ではないはずだ。
「そっか。そうだよな。変なこと言ってごめん。聞かなかったことにしてくれ。」と作り笑いをしながら花優の方を見ると泣きそうになっていた。
「え!?えっと…その本当になかったことにしてくれ!今のは俺が悪かった!」
俺は謝ることしかできなくてすごい焦っていた。
花優は鼻を啜りながら
「いいえ、私の方こそごめんなさい。せっかく歩呂良くんが誘ってくれたのに…でも、こういうことを言われたの初めてで……嬉しくなっちゃって……」
「そ、そうかでも、行けないなら仕方ないよ…花優のせいじゃない。」
それしか言うことがなかった…でも泣かせるようなことを言ったことは申し訳ないと思っている。
「歩呂良くんは優しいんですね…」涙目になりつつも少し笑っている。
そんな花優を見ていると……「私、本当は外に出たいんです。でも両親が『外は危ないからダメだ』って言うんです。お医者さんには『外に出ること自体は問題ない』って言われてます。けど……」
「けど?」
「例えお医者さんが外に行ってもいいよと言ってくれても、ここまで大事に育ててくれた両親の言うことを聞かないのはいけないことだと思うんです。だから……」
「だから何だ?」そこで俺は口を挟む。花優は「え?」と言ってこちらを見る。
「ここまで育ててくれたのはお前を幸せにするためだろ?……なら外に出たいって両親に言ったことあるのか?」俺は花優に聞くが花優は顔を横に振った。
「だろ?なら外に出たいって言ったら両親はきっと花優の言葉に耳を傾けてくれるよ。親っていうのは子供の幸せを1番に願っているもんだ。」
「でも……お母さんとお父さんの言うことはちゃんと聞かないとだし…」
「あのな……いいか?お前はもう小さい子供じゃないんだ。そのくらい言ったって親は何とも思わないよ。」
「そうでしょうか?」
「ああ……そうだ。」
「子供がいる大人はな…この世で1番つらいことがあるとしたら……それは『親より先に子供が死ぬこと。』それ以上、親のつらいことはないんだ……その反対もつらいけどな……」
そうだ。俺も中学生までは愛情をもらって育ててもらってたんだ。その日常が1日の一瞬で壊れる。そんなものより悲しいことはこの世にない。
俺はそれを知っている。
「歩呂良くん……」
「この話は花優のためにしたんだ……決して約束を破ったわけではないから罰は無しだぞ!」
「ははっ。いいですよ。今のは『約束内』ってことにしてあげます。」と言って花優はにっこりと笑って……「今度、両親が来たら『外に出たい!』って言います!そして歩呂良くんと一緒に公園に行きます!それでいいですか?」
花優は決心したように嬉しそうにそう言っていた。
「ああ。約束だ……あの景色を花優にも見せる。」
そう言って二人で笑いあった。そんな話をしているともうすでに遅い時間になっていた。
寝る前に……と、俺は空中にある幸せボックスに幸せを入れた。
もう1人も幸せボックスに幸せを入れてるなんてことも知らずに……
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