第14話 親という存在と運命
「初めまして……夢似 歩呂良です。挨拶も無しで盗み聞きみたいなことしてて、すみません…」俺は軽く頭を下げて謝る。
目の前には花優にそっくりな人が立っていて…年齢は30代後半くらいだろうか……とても若く見えた。
(怖い人を想像してたけど、案外優しそうな人だな)そう思った。
花優の母親は手を横に振りながら「あ、いいのよ全然大丈夫。」と言ってくれて少し安心した。
「それより……あの俺の事知ってたんですね。」俺たちは初対面だ。
でも、なんで俺の事を知っているんだろうか…?
「看護師さんに聞かなかったかしら?」
「え……?」俺は看護師の話はあんまり聞いていなかったものの大事な所は聞いているつもりだったのでビックリした。
花優の母親は続けて、「あのね……あなたが屋上から落ちるところを見てて助けたのは私なの。」
俺はビックリしすぎて声が出なかった。
(先生は近所の人って言ってたけどこの人だったんだ……)俺はこの人に助けて貰ってこの病院にいる。
例を言わなくちゃ……。
そう思ったが…(この人が俺を助けなければ俺は死んでたんじゃないのか?)そんな考えが俺の頭をよぎって……
「なんで…なんで助けたんですか…ほっといてくれたら俺は死ねたかもしれないのに……」そんな言葉が俺の口から出ていた。
自分でもなんでこんなことを言ってしまったのかと口を塞ぐ……
「そうね……死んでたかもしれないわ。でも、死んだ所で何か変わるの?」
そんな事を言われて俺は下を向いて黙ってしまう。
「あなたの両親が亡くなっていることは知っているわ……けどね?死んだ所で何もないの。『もういっそ楽になりたい』『死んで両親の所に行きたい』そんな考えは絶対にしてはいけないことなの。」
俺は何も喋ることができなくなっていた。
それでもその人は続けて…
「親が死んだから『自分も死のう』…そういう考え方じゃなくて『親が死んだからこそ親の分まで長い時を生きよう。』…そういう考えが大切なの……人は必ずいつか死ぬし、終わりが来るもの……決して避けることはできないことなのよ……あなたが死んだら天国の両親はきっと立ち直れないわ。それに自殺なんかで親に会いに行ったらすごく怒られる。
親って……いつまでも子供の親なんだから。」
花優のお母さんはそう言ってから俺に向かって微笑んで……
「命は何よりも大切なもの。絶対に自分から手放すことはしちゃいけないわよ?」と言って俺の肩をポンポンと叩いた。
……そんなことを言われたりされたりされれば俺の頭の中にはいろんな過去のことを思い出してしまう訳で……
両親がいた時の楽しさや嬉しさ…怒りや悲しみ…全ての感情が頭の中に蘇ってくる訳で……
気づいたら目から涙が出ていた。
俺は両親が死んでから強く生きよう……そう心に決めて自殺する日まで必死に生きてきた。
でも……いろんな事に耐えられなくなって「死にたい」って思うようになっていった。
……そして自殺を図ったが失敗して今ここにいる。
あのまま死んでいたら俺は両親に会えたのかな?
それとも地獄に行って親に会うことはできなかったのかな?
……分からない。
そんな俺の様子を見て花優の母親は「お説教はこれが最後だから聞いてね?」と言って窓の方に歩いていった。
俺は「はい。」と頷くことしかできなかった。
花優のお母さんは「よろしい。」そう言って笑って……
「人が死ぬのはね…運命によって決まっているらしいの。
でも自殺は違う……自分の運命を変えてしまうの。
だから君が自殺に失敗したのも両親が死んでしまったのも『運命』ってことなのかもしれない。
その運命をあなたは変えようとした…けど変えられなかった……ってことは神様はあなたに『生きろ』って言ってるんじゃないかしら?……それか、親御さんが天国であなたには死んで欲しくない。
そう願ったのかもしれないわね。」
俺は「そうですか……」とだけ言うと…「だからね?」花優の母親がこちらに向かって歩いてきてから……
「これから先…どんなことがあろうとも、どんなに辛いことがあっても必死に生きる理由を探して…そして……生きて。」最後にそう言った。
俺は止まらない涙を必死に手で拭いながら「はい……」とだけ伝えてから
「俺の事助けてくれたのにあんなこと言ってすいませんでした。
…それとありがとうございました。」そう言った。
花優の母親は俺の言葉を聞くとにっこりと笑って俺の方に歩いてきて「花優をよろしくね」と俺の耳の近くでそう言った。
ビックリしすぎて「え!?」という声も出ずに顔だけが「え!?」という感じになってしまった。
俺は慌てすぎてベットから落ちそうになっていると「それじゃあ、私は今度こそ行くわね。花優も歩呂良くんも仲良くしてね」そう言ってにこにこしながら病室を出た。
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「ふぅ」ため息をつく。
久しぶりに怒ってしまった……それにあちらから見れば初対面の人に。
「でも、これでよかったと思ってる。……あの子は花優と上手くやってくれる。」
来る前に少しだけ話声が聞こえてきた。
花優があんなに楽しそうに話しているのは家族皆が揃った時だけ。
「あの子をこの部屋にして正解だったわね」歩呂良くんをこの部屋にして、とお願いしたのは私だ。
あの子は花優と全く逆の事を考えてる。
「歩呂良くんと花優……自殺志願者と生を祈っている女の子が出会ったらいろんなことが変わりそうじゃない?」
1人でそんなことを呟いて廊下を歩き始める。
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