第111話 粋な黒塀 見越しの松に

『で?今度は何を作らせるつもりなんだ?』

 フォースさんが聞いてきた。

「そんなに難しい物じゃないですよ、手に入れた幌馬車にバネサスを仕込みたいのと座席を全面に取り付けたいんですよ」

 俺がそう言うとフォースさんは。

『いやいや、ヨーイチの要望だ、ただの座席じゃないんだろ?』

 と若干ワクワクした感じで聞いてくる、バレたか。

「まぁただの座席だったらフォースさんに頼まなくても作れますからね、座面と背もたれをスライドさせたら平面に出来る座席で座面の下には収納も欲しいですね。

 あとは急停車した時用に安全ベルトを」

 ジムニーに付いているベルトの機構は再現できなくても飛行機の座席ベルトぐらいの利便性は欲しい。

『座席はすぐ作れるしサスペンションはこの通り量産体制だ、任せときな。

 ただそのベルトと金具だなー、金具はイアンのスキルで作れると思うがベルトはあいつに頼んだ方がいいだろう』

 この通りというだけあってフォースさんの作業場にはワズマーミ水カッターさんが常駐している、なんかぼーっとしてるけど多分アイさんに折檻でも喰らったのだろう。

『しかし全面座席にして良いのか?今度は乗合馬車でも始めるつもりなのか?塩も半分置いてきたんだろう?』

 フォースさんに言われたが...運送は⚪︎次元ポケットマイさんのポーチもあるからなんとかなるだろうと思っている。

 ふむ、じゃあイアンさんのところ行ってみるか?頼みたい事もあるし。


『なるほど、その金具ならすぐ作れるだろう、それにサングラス?のフレームもすぐ作れるがレンズの加工の方が失敗しやすそうだな。

 目が治って日光遮断が必要じゃないなら布でレースマスクでも作ってもらったらどうだ?目を直視出来なければいいんだろう?』

 確かにそうだ、俺は目から鱗だった。

 ベルトのこともあるしいっちょ行ってみるか。

 俺はフォースさんと同様イアンさんにも制作を依頼してこの村の唯一の服屋というか繊維スキル持ちのおトミさんを訪ねた。


 おトミさんことトミ・オカセー・シ・ジョーさんは村の肝っ玉母さんみたいな人だ、みんなから親しみを込めておトミさんと呼ばれている。

 繊維スキルという糸や布を自在に操るスキルと虫型の魔物をテイムして飼育しているらしくその糸から絹のような布地を作って生活しているらしい。

『おやヨーイっちゃんじゃないか、昨日はタマゴカケゴハン美味しかったよ』

 そう言ってガハハと笑う、豪快な人なのだ。

『それにカリンちゃん、目が完全に治ったんだってねぇ、村から出て行った時は心配だったけど良かったじゃないか』

 そう言われてカリンはペコリとお辞儀をする。

『で?切れにくいベルトとカリンちゃんの目隠しレースが欲しいんだって?レースはうちの虫達の糸で可愛いのを作ってあげるけど強度がある糸は今置いてないんだよね』

 そう思って持ってきた物があるんだよね。

『あら!?これはピンクスパイダーの糸じゃないかい!?こんな上物どこで手に入れたのさ!?』

 あの時念のため回収しておいた糸を渡すとおトミさんは驚きながら鑑定している。

「それで強い糸を作れますか?」

 俺の問いにおトミさんは。

『ああ、これなら十分だよ、しかし大量に集めたもんだね』

 おトミさんによればピンクスパイダーの糸は縦糸に使うだけで必要な強度が得られるらしく俺が欲しいベルトの量で今ある半分程度で十分らしいのだ。

「残りはおトミさんに差しあげますよ」

 と俺がいうと。

『本当かい?なら依頼料はこれで十分だよ』

 と、快く引き受けてくれた。

 ベルトは今日いっぱい時間がかかるとのことでカリンのレースマスクを5枚ほどちゃちゃっと作ってくれた、それをつけたカリンは...ミステリアスで可愛い。

 某ライダーさんみたいなのとか某3Dゲームみたいなのとか真っ白で聖女さまが着けてるみたいなのとか。

 いやこれファッションでつけてもいいぐらい素敵ですよと言うとおトミさんは。

『あたしの仕事は女の子より可愛く、男をよりかっこよくさせる事だからね!』

 と胸を張った。

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