第86話 風の夜に馬を駆り

「ふっふっふー、みんな寝たわねー」

 真夜中のキャンプサイトでは目を覚ます。

 いや別に寝る必要も無いしずっと起きてるようなものなんだけどどうにも使徒の中に入っていると人間体に引っ張られてそういう習慣に染まっていくなー。

 いよいよ明日セイゴの街に着くけどマリアは洋一に依存レベルで好意を寄せているしあたしが手出ししなくても付いていくでしょ。

 それにして洋一は色々持ってるわねぇ、普通あんなレアキャラ引いてくる?元王宮魔道士で禁呪に呪われるロリババアとか面白すぎて吹き出しそうになったわ。

 ...まぁ、きっかけはあたしのチョンボだったから笑うに笑えなかったけどさ...。

 カリンの目の事もなんとかしてくれたし本当有能よねあの子。

 まぁあの子自身の呪いもアレをああすれば解けるんだけど取り急ぎあたしが動く必要も無いわね、ある意味寿命は伸びてる訳だし。

 あんまり派手に動くと神界規程に引っかかるかもしれないし折を見てヒントに導けば良いわよね?


 それにしても不安なのは本体アメリ直々の記憶操作が効いてなかった事よね...。

 緊急だったからしょうがないとは言えあたしの魔力分けたのはマズかったかなぁ、死にかけだったら周りのみんなから少しづつ集める事も出来たけどガチで死んでたからねぇ...。


 よし!済んだことをくよくよ言っても仕方ない!

 あたしの役目はカメラマンなんだし洋一のおかげでカメラマンにならなくて済んでるからオールオッ...プチッ!


 ん?なんだろう?なんかすごく微妙な喪失感と嫌な予感が...?

 これ...アメリズが一体消えた?

 使徒の肉体が滅びた時でもアメリズは女神アメリの元へ帰るだけ、しかも消えたアメリズは使徒に取り憑いているものではなく世界監視をしていた個体だ。


 あたしと本体アメリは感覚も思考もリンクしている、故に何者かに殺されたのならその感覚さえ本体アメリ経由であたしにも流れてくる筈だ。


 何かがおかしい、こんな事世界創生から今まで一度も無かった事だ。


 あたしはマリアの深層心理に引っ込んで本体アメリとのリンクを強くする、これは...異常事態だ。


 ...


「第一回!チキチキ、アメリ会議ー」


 議長席に座るあたしと周りを囲むアメリズ。

 使徒として融合しているアメリズ以外全てが終結している、その数8。

 今使徒化しているのはマリアを含めて三人、やはり1人足りない。

「消えたアメリズは北の担当よね?」

 全てのアメリズとあたしは感覚リンクしているがあたしが1体に集中している時などはさすがに見落としもある、各アメリは同人格ながら独立して動く事も出来るので情報の補完をする。

「そうね、中央、東、西、南は異常無しだったわ」

 やっぱりか。

 北にはほとんど人は住んでいない、極寒の気候だからだ。

「わかったわ、アメリズ二人で調査に当たって頂戴、もう1人は少し南でバックアップを」


 この世界の創生から大きなトラブルは無かった、ついに来てしまったのか?が。


「おかしいなぁ、完璧に調整していた筈なのに...」

 あたしは大きくため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る