第74話 この豚バラ煮込みは

「こんにちは!魚を買いに来ました!こっちは通訳のカリン!」

 いちいち説明する暇がもったいないので一気にまくし立てる俺。

『うおっ!びっくりした!いらっしゃい、どんな魚が欲しいんだい?』

 驚きながらも接客してくれる魚屋さん。

「魚屋さんって漁師もやってるんですよね?生で魚食べた事あります?」

 俺の問いに。

『随分変な事聞くなぁ、あるぜ?漁の途中で食い物が無かったりしてな。

 食いにくいし焼けばホクホクになるのになぁって思いながら食ったぜ』

 よし、この人で良さそうだな。

「じゃあこの中で生で食べても大丈夫なやつのうち身の味が美味しかったり濃かったりするやつを4種類ほどいただけますか?」


 ふむふむ、ハタっぽいやつにアジっぽいやつ、コレはコチっぽいかな?あと青物の子供っぽいな。

 魚を買った俺は歩きながら考えていた。

 いくら異世界といえど似た魚は同じような体つきをしているだろうと。

「それならアレがほしいな、そうだカリン!車からあの箱持ってきて」

 そう言って指示したのは調味料箱、俺はキャンプに行く時に料理するために揃えてある一式だ。

 カリンは頷くと駆けていく。

 俺は穀物屋に戻るとクッカーの様子をみる、十分に吸水してるようだ。

 クッカーをシングルバーナーに乗せて火をつける、1人分ならメスティンで自動炊飯したほうが楽なんだけどな。

 とりあえず飯は放っておいて良いのでメリルに蒸気が出なくなったら教えてと言ってまな板と包丁の出番だ。

 と、その前に。

「マリア、ちょっとハーブを買って来てくれないか?爽やかだけどすーっとはしない感じのやつ」

 そう言って送り出しおれはまな板に戻る。

 まずは全部ウロコ落としだな、包丁の背で鱗を落とす。

 お次は内臓、肛門から一直線に腹を裂き破かないように取り出す。

 ゴミの処理は後で聞けばいいか、捨てれなければ海辺に行って小魚の餌だな。

 下処理を終わらせてまずはハタ系の奴から。

 ヒレの横に切り込みを入れて包丁を差し込み中骨(背骨)にそって切っていく。

 しかし俺が魚捌けるようになるとはねぇ...。

 元々料理はやれば出来る方だし小器用ではあったけどいかんせん全く経験がないというのは辛いもの。

 釣りはするものの幼い頃は親任せだし大人になってからも知り合いの店などに頼んでいた。

 しかし近年変化があった、釣りyoutuberの台頭だ。

 やり方が動画で見れる上に順を追っていくとど素人からプロ顔負けにまで成長する過程まで見える。

 必然的に頭の中に捌き方がインプットされいざやってみたら難なくこなせたのだ。

 ハタを3枚に下ろした俺は腹骨をすき取り真ん中の血合い骨の多い部分も切り離す。

 さらに皮をむいて所謂柵の状態にする。

 みんなはセリスさんに頼んだ軽食をつまみながら興味深そうに見ている。

 青物も捌き方は一緒。

 コチ系は若干面倒で背びれから切っていき上2枚、下2枚の5枚下ろしに。

 そしてアジは面倒なので大名下ろし、コレは細かくおろさずザックリと下ろして皮を剥ぐ、腹骨も取らない。

 そうこうしてるうちに飯が炊けたので火から降ろしてひっくり返しておく。

 そこで気づいた、なんかギャラリー多くね?

 魚を捌くのが珍しいのかいつのまにか囲まれている。

 まぁいい、まずはマリアの買って来てくれたハーブから大葉に近いのを取り刻む。

 そこにアジの身を乗せ叩いていく。

 さらにカリンが持ってきてくれたボックスから生姜チューブと炒りごまを足して叩く。

 仕上げはコレ、中華チューブ。

 コレは味噌がない時に便利な中華風なめろうのレシピ、現場で仲良くなった大工に教えてもらったものだ...BIGのやつ元気にしてるかな?今でも美人のと一緒に仲良く釣りしてるのかな?

 おっと叩かねば。

 なめろうは身がある程度残るやり方とガッツリミンチにするやり方があるが俺は後者だな。

 小魚の腹骨をすき取ると可食部がガッツリ削られるから骨ごと叩く。

 出来上がったなめろうを味見、うん普通にうまい。

 他の柵を刺身に切り分けて人数分のコメをよそってその上に並べる。

 チューブワサビを醤油に溶いて回しかけたら...。

 完成!異世界海鮮丼!中華風なめろうを添えて。

 まずは俺から...。

 うん!美味い!

 ハタ系の甘みと青物の脂、コチのさっぱりした旨味歯応え!

 あっという間に完食してしまった俺は。

『ヨーイチ!イタダキマスしなさい!』

 と、メリルから子供みたいに怒られるのであった、ご馳走様でした。

 俺の食べっぷりにみんなも食べ始める。

『こうやって食うのか!美味いな』

 穀物屋の親父さんも満足げ。

 生の魚という先入観さえ取れてしまえば味は美味いはず、みんなニコニコで食べている中で。

『これは!?急に刺激が来ましたわ!』

 どうやらマリアの食べたやつに溶けそこねたワサビの塊があったらしい。

『生の魚などと聞いてくるからどんなもの食わされるかと思ったがなかなかいけるのう』

 俺の料理を初めて食うアイさんにも好評のようだ。

 と、そこで野次馬の中から見た顔が、魚屋さんがそこにいた。

『捌くところから見させてもらったがどんな味になるんだ?』

 と聞いてくるからコメはもう無いが刺身の残りを醤油と共に差し出す。

『おお!食いやすくてしかも美味い!』

 と、感動してるところ悪いがそういえば醤油の代替品は見つかってないので。

「この調味料はあまり無いので塩で食べてみてください」

 と、どっかのグルメ漫画みたいなことを言う。

『うん、塩もさっぱりしていて美味い』

 と、お気に召してくれたようだ。

 これも異世界の技術って事になるのかな?

 異世界ってか日本食だけど。

 この調子でじゃあ片っ端から刺身で食いそうだな、毒魚とか食わなきゃ良いがと思ったがフグなど加熱しても当たるんだから漁師なら大丈夫だろう。

 こうやって図らずも米をゲットした俺たちはアイさんの家に帰るのだった。

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