第71話 モブならの野望

『くっくっく、ワシが手を下すまでもなかったようじゃのう』

 チクショーこのロリババアめ!

 いやガソリン満タンは助かるけどなんで!?

『ふむふむ、これが異世界の乗り物か...興味深いのう、ん?』

 ジムニーを調べていたアイさんが止まる、給油口のあたりか?

 怪訝に見ている俺を手招きするので近づくと俺の腹と給油口に手を当てて何やらブツブツと言っている。

『ここからお主の魔力と似た波動を感じるのう、なんじゃこれは?』

 そう言われて想像する...俺が魔力切れで...ガソリンが満タン?

 俺はガックリと膝から崩れ落ちながら。

「俺にチートが無いのに愛車がチート持ちだよう...」

 そのままorzの体制で落ち込んだ。

『ふむ、お主の魔力を吸って燃料にできる乗り物か、ありえない話では無いぞ』

 俺の仮説を披露するとアイさんが肯定してくれる。

「どういう事?」

 俺が聞き返すとアイさんは。

『お主も使っておろう?魔封石じゃよ。

 魔力を石に詰め込めるのじゃ、用途に合わせた液体に変換する事も不可能じゃなかろうて、じゃが...』

 アイさんは俯きながら考え込み。

『それを為すのはワシでさえ容易ではないじゃろうな、やはり何か関係があるのじゃろう、使徒様と』

 まーた使徒かよ!ってか会った事もない奴に裏でコソコソされるのはなんかムカつくなぁ。

 そんな会話をしていると。

『ヨーイチ様〜!大成功ですわ〜!』

 とドヤ顔のマリアとポーカーフェイスのセリスさんが帰ってきた。

 聞けば雨の少ない季節ゆえにセイゴ方面へ出荷できずダブついた塩を買い叩けたとのこと。

わたくしの計算で行けばセイゴまで持ち帰れば3倍で売ることが出来ますわ!』

「おお!でかした!」

 俺は嬉しくなってマリアの頭を撫でる、撫でられたマリアは嬉しそうに頬を染めて微笑んでいる。

 こうしてれば美人で可愛いのになぁ...。

 などと考えているとセリスさんが。

『ヨーイチ様、一つ問題が』

 と、進言してくる。

「どうした?」

 俺が聞くとセリスさんは。

『あまりにも安く買えすぎた結果塩が多すぎたのです』

 え?マジ?

「えーと一応聞くけどどのくらい?」

 嫌な予感がしながらきくとセリスさんは。

『現在の積載量ならば2回分ほど』

 と言い切ったのだった。

 俺はギギギっとマリアの方に顔を向ける。

 うん、この子は頑張った。

 決して「多すぎるだろ!」ってツッコミは入れられない。

 しかしここで倉庫なんて借りてたら次いつこれるかだし儲けもなくなってしまうかもしれない。

 俺はふと思いついてとある人の方にギギギっと顔を向けて言った。

「そういえば魔法屋って...結構物がなくてガラガラだったよねぇ...」


『やめるのじゃー!ワシの店ー!』

「よーし!次はこっちです!塩屋のお兄さん達!この隙間に積み上げちゃいましょう!」

 だって休むんだろ?

 こっちが嫌がるけどついてくるんだろ?

 じゃあお互い協力しないとねぇ。


 アイさんは大袈裟に騒いでいたけどちゃんと空きスペースに積み上げたし塩気を嫌う薬品の近くも避けている。

 動線も確保してるし手狭ながらこのまま営業だって出来るぐらいだ。

 全部運び終わったあとは。

『まぁ...これならええじゃろ』

 って言ってたしな。

 出発時は半分減るんだし我慢してもらいたい。

『しかしお主らこの塩が財産のほとんどなんじゃろ?2階は広いから宿を引き払って出発までここで過ごして良いぞ』

 そう言ってくれるアイさんのご好意に甘えさせたいただ...2階はまだ広い!?

『な?なんじゃその目は!2階はワシの家じゃ!塩の買い増しは許さぬぞ!』

 俺の更なる野望は阻止されてしまった。

 俺みたいなチートなしのモブキャラは稼げるうちに稼ぎたかったのに。

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