第72話 仕事、出来る、男、それが、彼女の好み

「ん~」

 俺は一人うなっていた。

 宿を引き払いアイさんの家に滞在しながら帰る準備をしていたのだが悩みの種はもちろんスライムである。

 アイさんから塩もしくは塩水で撃退できるのは聞いているし、考えてみたら街の周りが安全だったのも潮風のおかげなんだろう。

 もちろん塩は大量に積んでいるけど大事な商品だし海水を汲んでいくのもいいけどあまり積むと無駄に重量が増えてしまう。

 何か効率がいい方法は無いか一人思案にふけっていた。


「あ~!やめやめ!」

 完全に煮詰まった俺は気分転換にベッドに転がると目をつぶる。

 昼寝でもして頭スッキリさせたほうがいいアイデアも浮かぶってものだろ...。


 ...


「お、寝たわね!ちゃ~んす!」

 はいそいそと移動を始める。

 早いうちに済ませたかったのよね、消費魔力量の調節。

 また死にかけられたらたまったもんじゃないからね。

 さーて洋一の夢はどこかな~っと。


【夢の中、入ってみたら、スライムだ。】


 アメリ、心の川柳。

 じゃないわよ!なによこの夢!?スライムで悩んでたからって夢の中までスライムまみれとか気持ち悪い!


 あ、居た居た、洋一の深層心理。

 え?何やってんの?

 スライムにバケツで水掛けたり塩振りかけたり。

 ああ、夢で迄試行錯誤してるのね。


 まぁいいわ、ガソリンに変換する魔力量の調整だから顔合わす必要もない...ん?

 べちゃり

 気づかないうちにスライムに張り付かれていた。

「何よ、気持ち悪いわね」

 女神たるあたしにとってスライムなんかに害されることも無い、ただただ不快なだけなので引っ掴んでぶん投げると洋一の様子を...べちゃ!

「あー!もう!しつこいわねぇ!効かないんだからくっついてこないでよ!集中しづらいじゃない!」

 文字通りスライムをちぎっては投げちぎっては投げしているとその騒がしさに洋一がこちらに気づいた。

 その瞬間!効かないはずのスライムの溶解能力が働き始めた!

 あたしのに!

「あ!コラ!このスケベ!変なこと想像したでしょ!?」

 そう、ここは洋一の夢の中。

 想像は創造たる世界だ。

 そして洋一がよく読んでいるラノベやネット小説にはお約束がある。

【スライムは女性の服を溶かす】ラッキースケベ

 それが作用したんだろう、あたしの服がみるみる溶けていく、ご丁寧に身体には無害。

 むしろなんか肌の調子が良くなってない?

 こんなところでスケベなとこと優しいところ出してきてんじゃないわよ!

「大丈夫か!?」

 洋一が駆け寄ってきて塩をかけてくれたおかげでスライムは溶ける。

 あんたのせいでしょうがって言いたいけど洋一が意図的にやったわけではないのでここは我慢。

「ありがとう、助かったわ」

 しかし流石は夢ね...ギリギリ大事な場所だけ隠れる溶け方とかタイミング良すぎでしょ。

 かなり扇情的な恰好になってしまったけどまあ隠れてはいるし本題を済ませて帰ることにしよう。

 魔力量調整に取り掛かろうとしたら洋一が尋ねてきた。

「君...どこかで会ったことないか?」

「さあね?初対面じゃないの?」

 どうせ消す記憶だから律儀に答える必要はないんだけど無視するのもなんだし。

「俺は毛利洋一、よろしくな」

【知ってるわよ】

 とも言えず。

「あたしはアメリ、助けてくれてありがとう」

 とんだ茶番だわ。

 さっさと済ませて帰ろう。

「あ、そういえばあたしおまじないが得意なんです!お礼におまじないかけてあげますね!」

 そう言って洋一の頭に手をかざしておまじないのふりをして魔力量を測り直して調整する。

「ああ、思い出した、この前死にかけたんですが目が覚めた時マリアって子の顔を見間違えたんですけど貴女に似てたんです、それで初めて会った気がしないんですかね」

 え?今何って?

 すごくヤバイ気がする!

「あ、あはははー!おまじない終わったんで帰りますねー!

 あたしのことは極力早急に忘れてくれたら嬉しいかなー」

 そう言ってあたしは脱兎の如く逃げ出した!


 ...


「ふあーあ...」

 ちょっと休憩するつもりが思ったよりしっかり寝てしまった。

 ふと横を見るといつものポジションにカリンとマリアが添い寝していた。

 カリンはいっつも可愛いなぁ...マリアは寝てると可愛いんだよな。

「しかし変な夢見たなぁ...アメリか、美人だったし服装もエロかったな」

 思い出して若干イヤラしい笑みを浮かべてしまう。

「また夢で会えたら嬉しいな、よし!起きて対策の続きでも考えるか!」

 俺は2人を起こさないようにそっと腕を抜くと起き上がってスライム対策に頭を捻るのだった。


 ...


「嘘...でしょ?」

 あたしは天界で頭を抱えていた。

 ほんの今マリアの中のアメリズが聞いた洋一の言葉を聞いて。

「記憶が...消せてない?」

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