第69話 あいつの前では女の子

『ふむ...お主どこから来た?』

 と言う問いに俺は悩んだ。

 ここはどう答えるのが正解だろう?

 異世界から?

 しかし俺の魔力パターンとやらは異世界由来ではないらしい、このロリババアが信用できるかはまだわからないので...。

「エルピオーネと言う村から来ました、塩の仕入れなんですよ」

 嘘は言ってないよな、異世界云々を抜いたらある意味ホームみたいなもんだし。

『おお!懐かしいな、魔法村からじゃったのか!』

 お?ご存知でらっしゃる?

『おっと自己紹介が遅れたの、ワシはアイ・オツロー、こう見えて元王宮魔道士じゃ気軽にアイちゃんと呼んでも良いんじゃぞ?』

 いや中身ババアなんだろ可愛いけど。

「毛利洋一です、こっちが通訳のカリン、妹みたいなものです。

 この子はメリル、カリンの保護者の娘さんで義姉妹と思っていただければ」

『なるほど、保護者にクォーターエルフという事は忌子というわけか...まったくエルフは頭が硬い奴ばかりよのう』

 ん?どういう事だ?

『元王宮魔道士と言ったじゃろう?魔力の高い忌子は真っ先に研究されておる。

 言い伝えでは災いを呼ぶと言われておるがそれは昔その高い魔力で暴走した子がおったというだけの話じゃ、それをエルフ達に伝えてはおるのじゃが世代交代の遅い長命種じゃとなかなか頭が切り替えられぬようでな...』

「未だに改善されない悪習って事ですか?」

 俺の問いにアイさんは。

『うむ、悲しい事にな、お前さんは随分頭が柔らかいようじゃの、魔法村出身者にしては珍しい事じゃ』

 まぁクイズ番組とか見てるから頭の体操は...ってちがーう!そうじゃない!

「縁あって村から来ましたが出身は別ですので」

 俺がそういうとアイさんは俺をじっと見る。

『確かにこの辺りで黒髪黒目というのは珍しいのう、お主出身はどこじゃ?』

 むー、正直に言って良いものか?元王宮魔道士とか言ってるから信用して良いのかもしれないがそもそもこの見た目で王宮魔道士?

 先にそこら辺を聞いてみるか。

「話しても良いのですが信頼できる人にしか話したくないんですよね...先にアイさんの事をお尋ねしても?」

 俺がそう聞くとアイさんは。

『構わんぞ、こんなナリで元王宮魔道士と言っても信じられぬだろうからな。

 ワシが王宮から出た事とこの姿である理由は一緒じゃ、所謂禁呪の研究をした結果じゃ』

「禁呪?」

 聴き慣れない単語に思わず聞き返す。

『禁呪と言うのはとても強力な呪文の事、火炎であれば一帯を火の海に出来風であれば全てを吹き飛ばす』

 すごいな...流石魔法の世界だ。

『じゃが禁呪には大きすぎる対価が必要でな...寿命が減るのじゃ、呪文1発で20年も...』

 アイさんは顔を伏せる。

「流石にそれでは実用的では無いですね、本当に奥の手だ」

 俺がそう言うとアイさんはパッと顔を上げて。

『そうじゃろう!?そうじゃろう!?改造したくなるじゃろう!?』

 いやならねーよ、あぶねーよ!

『それでワシは長い時間をかけて禁呪を改良したのじゃ!したつもりだったのじゃ!』

 と言ったな?嫌な予感しかしない。

『そして運命のあの日!王都にドラゴンが攻めて来たのじゃ!そんなんもう撃つしかないじゃろ!?』

 いや気持ちはわかるけどテストとかしてないのかよ!

『ワシは折角だから最強の禁呪をアレンジしたものを唱えたのじゃよ!【黄昏よr「おーっと!なんかやばい気がする」レイブ!】とな!』

 俺の咄嗟の判断で色々各所には配慮出来てると信じたい!

『それでドラゴンは一瞬で消し飛んだんじゃが...ワシは急に視界が低くなって立つこともままならんかった、寿命の代わりに時間を使う術式だったのじゃが奪われたのはワシが生きてきた時間じゃったのじゃ』

 なんかサラっと言ってるけどコレとんでもない話なんじゃないか?

『当時のワシの年齢が50歳、それが赤ん坊まで戻ってしまったのじゃ、その後副作用でワシは5年で1歳分の成長しかできん』

 なるほど、それで5〜6歳児の外見というわけか。

『ともあれワシはドラゴン討伐の功労者じゃろ?そう思うじゃろ?』

「あー、うんソウデスネ」

『なのに王宮は「危険すぎる」だの「役立たず」だの「次弾装填して出直せ」だの言ってワシを追い出したのじゃ!』

 ハァハァと息を荒げるアイさん、なんだこの有能なポンコツは。

『故にワシは王宮をでてここ、海の街ソマリンに移り住んだのじゃ、当時の弟子に背負われてな』

「へー、じゃあそのお弟子さんと二人暮らしで?」

 俺がそう聞くと。

『もう30年前の話じゃぞ?とっくに結婚してでて行ったわ』

 と答える。

『コレがワシの事情じゃ、どうじゃ?面白いじゃろ?』

 うん、面白いけど笑えない、でもまぁ悪い人じゃないのはわかった気がする。

「わかりました、こんな話聞かされてこっちだけ秘密のアッコちゃんってのは何ですからね。

 俺、実は異世界から来たんですよ」

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