第49話 無責任一代男

「おーい!あんた!」

 簡易的な革鎧を着た男から雑踏でいきなり声をかけられた、あれは騎士見習いの鎧だな。

「なんだ?」

 顔見知りでもない男からのいきなりの声かけである、俺は訝しげに答える。

「あんた仕立てのいい服着てるな!俺と友達になろうぜ!」

 その頃の俺は親父から商会を引き継ぐ前段階くらいでみんなから若旦那などと呼ばれていた。

 俺の金をあてに交友を深めようとする輩は沢山いたがここまでどストレートに言ってきたのはこいつが初めてだ。

 思わず笑いがこみ上げてくる。

「そこまで隠さずに言ってくるやつなんて初めてだ、いいぞ!友達になろうじゃないか」

 俺はそう言って右手を差し出す。

「なんだ?俺がお前の金をあてに...はしているが奢らせようなんて思ってないぞ?なにせ街に来たばかりで騎士見習いの給金なんてたかが知れてる。

 出世払いで色つけて返してやるから俺に酒を飲ませろ」

 そう言って手を握り返してきた。

「ゼニス・アミダラだ、よろしく」

「騎士見習いのネシンだ」


 結論から言うとネシンは揺すりたかりの類ではなかった。

 見習いから騎士に昇進した時。

 はたまたその実力で小隊の副隊長になった時。

 節々でキチンと飲み代を返して来たのである。

 いやキチンとというのは語弊があるか。

 自分が総額いくらぐらい飲んだか覚えているくせに払う段階になると性格が出るのか端数は全て切り上げて渡してくるのだ。

 店の番頭など「ネシン貯蓄」などと言って笑っていたな。そんなこんなで店を継ぎ、若旦那から大旦那になって自由な時間が減ってもネシンとの飲みだけは欠かさず行っていた。

 結局同い年の友人との飲みが俺も楽しかったんだ。


 そんな日々を過ごしていたがある日突然、ネシンが頭を下げてきた。

「すまんゼニス!もう出世払いはできなくなっちまった!」

 当時ネシンは騎士団の副団長、次期団長も視野に入ろうかとした矢先のことだった。

「なんだよ藪から棒に、金なら気にしないでいいぞ?」

 親父から引き継いだ商会も順調でトップも手中に入ろうかという時期、金はあるんや。

「いやーこの前魔獣討伐の遠征に行っただろ?」

 そういえば数日留守にしていたな。

「そこで俺より強い女を見つけたんだ、出世払いなんて言っててすまないが俺はあの女に勝つまでは戻る気はない」

 ああ、ネシンらしいな。

 と俺は思った。

 魔法一発で負けて悔しいなんて言ってるが飲み遊んで娼館に行った時もこいつはアマゾネス等強い女しか指名してなかった。

 強さを追求する余り自分の遺伝子を残す(その行為をする)相手に強さを求めてるんだろうなというのは一緒にいるうちにわかった。

「金のことは気にするな!お前の出世が早すぎて余剰金だけで次回の払い分ぐらいは貰っている」

 俺がそういうとネシンはニッコリ笑って街を旅立った。

 あれからネシンには会っていない。


 俺はあの後必死に働いて自分の商会を街で最大にまで育て上げた。


 ...


『というのが私とネシン殿との思い出です』

「いや長っ!モノローグ長っ!」

 失礼とは思いながらも思わず俺はツッコミを入れた。

 いきなり語りだしたと思ったら出会いから別れまで一気に話すんだもんなぁ。

『あれから音信不通のままでしたが元気にしておられるのですね...あんなに可愛い娘さんまで。

 もうあれから16年ほど経ちましたかね?』

 アミダラさんは肩を震わせる、友人の現状が知れて嬉しかったのだろう。

『おっと行けない、おっさんの昔話に付き合わせてしまいましたね。

 手続きや馬車の幌掛けが終わるまではゆっくり当家でおくつろぎください、自慢の大風呂もございますから』

 そう言われて俺は風呂へ続く廊下を歩いていく。

 そもそもネシンさんと同い年ということは俺とも同いなんだが...。

 俺は頭を振って気を取り直すとカリンが。

『お父さんの昔の話が聞けてよかった。

 すごく楽しかったよ』

 そう言った。

『ねぇお兄ちゃん、さっきのお話の中でわからない事があったんだけど』

 ん?なんだい?妹よ。

『お父さんが行ってたっていう娼館って何?』

 うわぁ!いきなり超ド級の質問来ちゃった。

 俺はしばし考えた後。

「カリンは俺にギュってされたら嬉しいかい?」

『うん!お兄ちゃんにギュってされると幸せー』

「その幸せを味わえない人がお金を払って綺麗なお姉さんに幸せにしてもらうのが娼館ってやつだよ。」

 とりあえずその場しのぎだが大筋では合ってると思う!

 村に帰った時カリンがネシンさんに聞いたりしても俺は無責任に知ーらない!って言おう、そう決めた。

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