第40話 ズレた間の悪さも

『ねぇみんな今の何?』

 ラビが不思議そうに尋ねてきた。

 んー、説明するにはまず俺の境遇からになるんだけど...ラビならいいかな?可愛いし。

「いいか?ラビ、俺は異世界。

 ここじゃない世界からやって来たんだ」

 俺にとってはココが異世界なんだけどこの世界の住人にとっては地球が異世界だ。

「で、だ。

 俺の故郷の食事の挨拶というか掛け声というか、いただきますにはいろんな意味があってな」

 ラビは興味津々で聞き入っている。

「まずは食べる生き物に感謝、動物でも植物でも一緒だな、命をいただきますよっていう意味」

 感謝を教えとかないと“命いただきます”だけじゃ暗殺者か殺し屋っぽいからな。

「それに作ってくれた人に感謝、これを作ったのは俺だけどパンは村で焼いてもらったし野菜も村の人たちが作ったものだ」

 ラビはウンウンと頷いている。

 前言撤回、幼児姿でも無茶苦茶可愛いなこの子。

「まぁそういう色々な感謝をまとめて目の前のご飯を“いただきます”って言って食べるわけさ、わかったかい?」

『わかった!いい言葉だね、イタダキマスって』

 物わかりが良くて素直だな、俺の好感度もうなぎ上りだぜ、カリンは妹だけどラビは子供みたいなもんだな。

 案外こういう情操教育のためにデメジーは俺にこの子を託したのかもな、いずれは群のボスになるにしても人から吸収出来るものは多い方が群の生存に繋がるだろうし。

「ついでに教えておくけど食べ終わったら“ご馳走様”っていうんだ、元々は走り回って食材を集めてくれてありがとうって言葉らしいんだがそれが転じて美味しいご飯をありがとうって感じかな?」

『イタダキマスにゴチソウサマかー、いいねボクも今日から使ってみよー』

 というわけで改めて。

「いただきます!」

『イタダキマス!』

 そうしてラビはなんとなく、義姉妹は意図的に塩胡椒の方からパクッと食べる

『美味しー!』

 とラビが満面の笑みで声を上げる。

 カリンとメリルちゃんは村で食べているのではしゃぐ事はないけどモグモグと美味しそうに食べている。

 お腹も空いていたのでみんなあっという間に1個目を食べ終わりタルタル入りの2個目へ。

『これも美味しー!』

 ラビが幸せそうな顔で食べる、タルタラー姉妹も口々に美味しい美味しいと言いながら食べている。

 あっという間に食べ終わってしまったけどみんな幸せそうに余韻に浸っている。

 俺は焚き火で沸かしておいたお湯で自分用のキリマンジャロと3人にはココアを煎れてあげる。

『甘ーい!美味しー』

 今度は3人揃っての美味しいコールに俺は作った甲斐があったなぁと満たされる。

 コーヒーの代用を考えていたんだがこの子達の飲み物の代用も考えておかなきゃなぁと強く思うのであった。

 一通り食べ終わったのでみんなで手を合わせて。

「ごちそうさまでしたー」

『ゴチソウサマデシター』

 と気分の良い昼食になった。

『あ、ヨーイチ』

 出発までのんびりしようと思ったところにラビから声がかかる。

「どうした?」

 と、姿勢を下げて目線を合わせて聞いてみたら。

『ゴブリンもゴチソウサマデシター』

 いやこのタイミングで!?

 若干苦い気分になったのはきっとキリマンジャロの後味のせいだと思いたい!切実に!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る