第39話 あいさつの魔法

 森を抜け街への道をのんびりと走りながら俺はあることを思い出した。

「そういえばメリルちゃん、さっき言ってた森林ジジイって何だ?」

 ラビの可愛さに有耶無耶になっていたが気になっていたのだ。

『村の七不思議の一つよ、森の中に忽然と現れて忽然と消えるお爺さんが居るって話、まさか真相が角兎アルミラージだったなんて...』

 なるほど、デメジーが変化したり解いたりしたところを目撃したのか。

「七不思議って言うことは他にもあるのか?」

『そうね、身近なところで言えば急に口調が変わるワズマーミさんとかかしら、男のお客さんが来た時だけ急に変わる時があるのよね』

 あ、やべえこの話題はやめとこう。

「へー、ソウナンダー」

 俺は話をはぐらかす。


 街までは荷馬車で3日ぐらいと言っていたので荷馬車を引いたジムニーなら2日もあれば着くだろう、途中一泊といったところかな?

 そんな事を考えながら運転していたら大事な事を思い出した、カリンと初めて会った時のアレである。

 フロントガラスに少量の雨が落ち始めてハッとした、ここの雨ってヤバイレベルだった!

 俺は急いで車を停めると荷物の中からタープを取り出し荷馬車にかける!

 背の高い荷物を真ん中に寄せたので傾斜は取れている事を祈ってロープで縛り車に飛び乗った瞬間!ザーッっと音を立てて雨が降ってきた。

 幸い飲み水は村からタンクいっぱい貰ってきたのでバケツで受ける必要はないけど危うく荷物がずぶ濡れになるところだった。


 急な雨音にラビが目を覚まし幼児の姿になる。

『ヨーイチー、ボクお腹すいたー』

 確かに雨が降り出す前は太陽はほぼ真上、お昼時だなーとは思っていたのだが...困った、調理スペースがない。

 ソロならなんとか車内調理もできるんだが今は3人+ラビ、雨中の設営はまずタープを張って屋根を作るべきだが頼みのタープはさっき荷物にかけてしまっている。

 この状況で俺の取るべき行動は...。

「なぁラビ、お前って食べられるもの、食べられないものってあるのか?」

 雨が止むまで時間稼ぎ一択だった。

『なんでも食べられるよー、慣れておけって言ってデメジーが人間の食べ物も持ってくるし』

『そういえば森林ジジイが目撃された後食材や料理が無くなるって話だったわ』

 と、補足するメリルちゃん。

 あのジジイ村で食い物パクってやがったな。

「じゃあしょっぱいのや辛いのも大丈夫なのか?」

『普通の角兎アルミラージは無理かもしれないけどボクは慣れてるから平気だよー』

 ふむ、食べ物に関しては特に問題はないのか。

「じゃあ雨が止んだらお昼にしよう、どうせこの雨じゃ無理に進んでも良い事ないしな」

 そう言って俺は昼の献立を考える。

 この一週間メリルちゃんの家に泊まらせてもらったが日持ちしない食料は率先して使っていったので何を作れば良いか頭の中でストックを思い浮かべる。

 ベーコンは食べる用のやつを取り分けてあるし村から選別でもらったパンとチーズがあったな、卵ももらってきたので問題はないかな?

 ちなみに卵に関しては驚かされたのは見た目と中身がまんま鶏卵だった事、さらにそれを産んでいる鳥がやけにスリムだった事だ。

 ラレションの近縁種を改良したらしく無精卵を1日3個ほど生むらしい。

 そのかわり肉はほとんど取れず廃鶏扱いになると丸ごとスープのダシにしてしまうようだ。

 とりあえずTKGはお預けにしておこう、あの鶏若干見た目がキモいし生食可能かどうかもよくわからんからな。

 そうこうしてるうちに雨も止み俺は荷馬車からタープをひっぺがしポールを使って張っていく。

 テーブルとチェア、人数が増えたのでコットも椅子がわりに出してさらに焚き火台をセットする。

 OD缶は余分に持ってはきているが何があるかわからないので節約しよう、薪は村からもらってきている。

 焚き火をおこして食材をテーブルに並べる。

 まずはパン!食パンだ。

 村のパンはバゲットタイプだったがどうしても食パンが欲しくてイアンさんに型を作ってもらった...いや悪巧みして型を作らせたのだ。

 その理由がこれ、ホットサンドメーカーだ!焼き目がランタンの形になる素敵なやつ。

 元々持ってきていた食パンが悪くなる前に食べてしまおうとホットサンドを作った時イアンさんにお裾分けしたのだ。

 美味いと言われてこのパンはどうやって焼くんだ?と聞かれたので型に入れて焼くんですよーって説明したらすぐに言った通りの型を作ってきてくれたわけだ...計画どおり!

 予想外だったのはイアンさん、短時間でホットサンドメーカーまで作ってきちゃったんだよ、しかもデザインや寸法をそのまま作ってるので異世界に偽コールマンがあると言う不思議な状態になってしまった。

 まぁ作っちゃったものはしょうがないしねー。

 というわけで荷馬車には同じ模造品が5個ほど載っている。

 街で売れるようなら売ってしまおう。

 話を戻してお昼ごはんだ。


 俺はホットサンドメーカーに食パンを1枚置き、千切りにしたキャベツもどきを敷くとそこにベーコンを散らして土手を作り卵を割って落とす。

 塩胡椒をして上にもパンを置いてホットサンドメーカーを閉じて焚き火の上に乗せる。

 しばらく焼いていくと良い匂いがしてくるのでひっくり返して反対側も焼く。

 開けてみてみると綺麗にランタンの形に焼き目が付いている。

 同じようにもう一枚焼き、後2枚には塩胡椒の他にタルタルも載せたのを作る。

 少女二人は唐揚げアレ以来すっかりマヨラーならぬタルタラーになってしまったからな。

 そして全部焼き上がったら焼き目に合わせて半分に切る。

 これでちょうど塩胡椒のみとタルタル入りが一人一個でちょうど良いのだ。

 準備ができたので座り、手を合わせる。

「いただきます」と言うと『いただきます』と返ってくる。

 日本式の食前の挨拶を教えたらカリンはもちろんメリルちゃんも『それ良いわね』って真似するようになったのだ。

 ただ一人ラビだけがポポポポーンじゃなくポカーンとしていた。

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