第38話 ゆきうさぎ〜ゆきうさぁぎ〜(音乱れる)

 語りかける?魔獣が?うっそだー。

 などと思っているとカリンが通訳を始める

『そなたたちが我らにゴブリンをくれたヒト種じゃな?』

 マジで喋ってるよおい。

「確かにそうだが角兎アルミラージって喋れた...というか獣じゃないのか?」

 カリンが言うには獣や魔獣の鳴き声も聴こうと思えば聴けるらしいがそれこそ「肉!肉!肉!」とか「敵!敵!敵」など本能丸出しでしかないそうなのだ。

 魔物の中には人語解し人語を話す高位の魔物もいるそうだが滅多にいないらしい。

『ワシは群れのボスじゃ、角兎アルミラージのボスは特殊でな。

 群全体の体内の魔石から発生する魔物なのじゃ』

 なるほど、外見はアルミラージでも実は違う存在なのか。

「で?そのボスさんが俺たちに何用なんだ?」

 俺の問いにボス角兎アルミラージは茂みに向かって手招きする。

 ガサガサと現れたのは幼稚園に通うぐらいの幼児だった。

『こんにちは!ボクは角兎アルミラージのラビって言います!』

 俺たち3人は顔を見合わせた、のだ。

 つまりこれはカリンの魔法と同じテレパシー?

『ホッホッホ、この子はワシの跡取りじゃ。

 このおいぼれのようにボスが歳を取ると新しいボス候補が生まれてくるのじゃがこの子には不思議な力があってな、そこの嬢ちゃんの魔法と同じことができるのじゃ』

 カリンは訳しながら驚いた顔をしている。

 何故カリンの魔法のことを!?と思ったのだがゴブリンを落とした後普通に会話してたわ俺ら。

『幼児の姿はワシらボス角兎アルミラージの特殊能力の一つじゃ、この力で人里に紛れ込み知識をヒト種から学んで群の為に生かすのがワシらの生態なんじゃがな』

 ボス角兎アルミラージはため息をひとつついて。

『この子は特殊すぎるのじゃ、擬態は人里で見て学ぶ為だけのものじゃがこの子の場合はヒト種と意思疎通が

 確かに何かあったらつい話してしまいそうだな。

『そこでお主らじゃ、同じ力を魔法で持っておる嬢ちゃんと一緒ならば違和感も少ないと思ってな、それにお前さんは普通の人間とは違う感じがするのじゃ。

 頼む!この子も一緒に連れて行ってくれはしまいか?ワシの寿命は後数年...この子にはそれまでに今までにない立派なボスになって欲しいのじゃ』

 ふむ、旅は道連れとは言うが魔獣という魔物なんだよなぁ。

 ここは俺の一存では決めれないな、二人に聞いてみるか。

「という事だけど二人はどう思う?」

 俺の問いにカリンは

『お兄ちゃんが決めてくれたらカリンはそれでいいよ』

 と言った。

『アタシもヨーイチの好きなようにしていいと思うわ、そもそもアタシは街と海辺までしか一緒に行かない訳だし。

 それに村の周りに住んでる角兎アルミラージと意思疎通できるのは村にとって悪い事じゃないしね』

 確かに魔獣とはいえ意思疎通出来るのならば共存もできるし助け合う事も出来るって事か。

「よしわかった!その子俺らが一緒に連れていくよ爺さん!」

 そう答えるとボス角兎アルミラージはボンッと煙に包まれてその中から気の良さそうな老人が現れた。

『カッカッカ!ワシを爺さん呼ばわりとはな、まあ確かにワシの擬態はこの通り爺じゃがの。

 旅人よ、報酬は帰って来てからで良いかの?』

 そう言われてコレがちゃんとした依頼なんだと気づいた、まぁ金を稼ぐ算段も皮算用ながら出来てるしなんとかなりそうだから急ぎで貰おうとも思わないしな。

『む、村の七不思議の一つ...森林ジジイ...!』

 メリルちゃんがなんか言ってるけど後で聞こう。

「それじゃそういうことで!俺は洋一、よろしくな」

『ワシの名はデメジーじゃ、ラビのことを頼む』

 と固く握手を交わすのであった。

 その時

『ふぁー、ボク疲れちゃった』

 ボンッとラビが煙にに包まれ、煙が晴れた後にはちっちゃな子兎が居た。

「何だこの可愛い生き物は!」

 まるで贈り物お土産に最適な銘菓雪うさぎのような外見に俺は平常心を保てない。

『ヤバイわ!角もほとんど目立たないし無茶苦茶可愛いじゃない!』

 とメリルちゃんも興奮している。

『え?ラビちゃんちっちゃくなっちゃったの?』

 カリンは目が悪いながら小さくなった気配を感じ取ったようだ。

「なぁラビ」

『なーにー?』

 俺の問いにけだるげに答えるラビ。

「あの...その...モフモフしてもいいか?」

『モフモフが何かわからないけど痛くないならいーよー』

 早速のお許しにまずはひと撫で、さらに耳の裏をこしょこしょと撫でて気持ち良さそうにしているラビに頬擦りする。

 あー!たまらん!癒される!

 狩猟免許を取って獣を狩っている俺だが基本的に動物が大好きなんだ!

『ちょっとヨーイチ!アタシにもモフらせなさいよ!』

 サッと、しかし乱暴にではなくラビを奪ったメリルちゃんがラビをモフる。

 愛馬ジークを可愛がっていたようだし動物の扱いにも慣れているのだろう、ラビも気持ちよさそうにしている。

「おいジジイ!報酬はいらん!ラビは俺たちが責任持って面倒を見る!」

『誰がジジイじゃ誰が、じゃがラビを気に入ってくれたようで何よりじゃ...ってお兄ちゃんあたしもモフモフしたい!』

 おうすまん妹よ!通訳中断してまでモフりたかったのか。

 そしてしばしラビを愛でた後俺たちはデメジーに別れを告げて街へと向かうのだった。

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