第36話 そして二人は幸せなキスをして終了、はしないからな!
宴もたけなわ、すっかり語り飲みモードに入ったダメな大人達に自分の知っている異世界とこの世界の常識にどの程度乖離があるのか聞いてみた。
「この世界には冒険者って居るのか?」
異世界ではよくある職業だからな、ラノベで異世界に来た人間はまず冒険者登録がスタート地点だろ?
『なんだ?山にでも登るのか?』
と答えるネシンさん。
あれ?居ないの?ってかそれ冒険者っていうより探検家だよね?
「いやそうじゃなくてギルドに入ってクエストを受ける何でも屋みたいな職業の事」
言葉の齟齬が無いよう細かく聞いてみる。
『ああ、そっちの冒険者なら居るけどこの村や街には居ないな』
どういう事だろう?
『この村は俺が守ってるし魔法を使える村人も多い、街の領主様は出来た人で魔物関係のトラブルなんかはお抱えの騎士が解決してしまうから冒険者の出る幕が無いんだ。
何を隠そうこの俺も領主様のお抱え騎士だったんだぜ?』
何その新事実!?どおりで村の防衛の要にされる訳だよ。
「騎士様がなんで村に?」
俺の問いにネシンさんは。
『討伐でこの付近に来たときに出逢っちまってな、妻に』
亡くなったメリルちゃんのお母さんの話か、ちょっといい話が聞けるのかな?
『魔物と間違って切り掛かったら魔法一発で吹っ飛ばされてな』
イイハナシジャナイナー。
『まだ若くて血気盛んだった俺は悔しくて悔しくてその後もここに残って試合を申し込みまくった訳だ』
あ、やっぱ脳筋だこの人。
『吹っ飛ばされては気絶して回復しては挑んでを繰り返してたんだ』
『覚えてるぞ、お前吹っ飛ばされて剣が折れたって俺に修理を頼みに来たっけ』
そう言って笑うイアンさん。
『それで何度目かの時に目が覚めたらアイツが膝枕しててくれてな、もう止しましょうって言ってニッコリ笑ったんだ、俺は心臓を射抜かれたね』
おお!出会いの話に戻ったぞ。
『首を起こして自分の胸を見るとすごく細い木製の串が胸に刺さっててな』
あれ?戻って...ない?
『村に被害が出てるでしょ?止めないならこの串ひねるわよ?って言われたんだ、すごく冷たい目でな、惚れたね』
いやいやいやおかしいだろ!なんでそこで惚れるんだよドマゾか!
『あ、その串作ったの俺な、魔力を通すと身体をすり抜ける植物があってそれで作った串を心臓に刺して奴隷にするって風習が大昔にあったらしくてそれを再現した物だ』
と、フォースさん。
『まさしくあの瞬間俺は恋の奴隷になったんだよ...』
いや違うからねネシンさん!おかしいからね!主にあなたの性的嗜好が!
『それから俺はアタックの方向性を変えた訳だ、恥ずかしい事に妻の顔をマジマジと見たのも膝枕の時が初めてでな、それまでは俺を吹っ飛ばすマシーンにしか見えて居なかったから』
どれだけ悔しかったんだこのおっさん。
「という事はよく見た奥さんは美人だったんだ?」
という俺の問いに。
『メリルを見ればわかるだろ?あいつは妻の美貌を受け継いでる』
でもまぁわからなくもない、美人で強いとかまさに異世界!って感じで魅力的だし。
『それから俺はこの村に腰を落ち着けて村の手伝いをしながら熱烈にアタックしたんだけどまぁ相手にされなくてな、それでもめげずに頑張った訳だ』
苦労したんだなぁ...。
『で、ある日村で小屋が倒壊する事故があってなそこにあいつと俺も居たんだが周りに近所の子供がたくさん居て俺は咄嗟に子供たちを庇って背中で壁を受け止めた訳だ、そしたらあいつが言うんだよ「なんで私を助けようとしなかったの?」って、だから言ったんだよ、俺はお前に惚れている!だからお前がこの程度得意の風魔法でどうにかできるのもわかってる、俺が壁を受け止めきれずに潰れたとしてもお前の風魔法で子供たちだけでも助け出してくれると信じてる!ってな』
おお!カッコイイ!
『そしたらアイツ「馬鹿ね」って言ってボロボロの俺を膝枕するんだよ、そしてアイツの顔が俺の顔に近づいて来て...そして生まれたのがお前だよ、メリル』
『だからお母さんとの出会い話のオチをいっつもアタシにしないで!』
どうやらこの話は酔うとよくする話のようでメリルちゃんはプンプン怒っているがその姿も可愛い。
奥さん美人だったんだろうなぁ。
しかし長話で忘れていたが街に行っても冒険者になれないのか?ちょっと困ったぞ?
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