第7話 助けてみたは良いけれど

 ドンッ!

 確かな手応えというか衝撃というかなんとも言えない感触を車体から感じながら俺は急ブレーキをかけた。

 ズザザザと音を立てて止まるジムニー、そのボンネットとバンパーはベッコリと凹んで...いない!

 付けてて良かったカンガルーバー!

 おっさんの青春時代の四駆には絶対着いてたんだけど今は事故時の歩行者保護で「それっぽい」物しか売ってないんだよね、でもこれはフレームに直付けされたオーストラリア直輸入のガチ物なのでビクともしていない、まぁ法的にはぶっちゃけアウト臭いやつだけど狩りの行き帰りで鹿などにぶつかって走行不能になったら目も当てられないので狩猟免許取得後に装備した物なのだ。

 おっと自分語りはここら辺にして...倒した化け物イノシシを見る、シルエットは完全に猪のそれなんだが上顎から生える牙の違和感が酷い。

 これで馬を殺したのか...と思いながら忘れちゃいけないトドメ、もし気絶しただけだったりしたら起きた瞬間俺の人生はゲームオーバーになってしまう、見た目も猪っぽいので上手くすれば食料になるかも?と思いとりあえず近くの木にロープで吊るしてナイフを取り出し頸動脈を切る、トドメと血抜きを兼ねようと言うわけだ。特に暴れることもなく血は抜けていく、俺は手を合わせ心の中で「いただきます、成仏してくれよ」と唱える。

 この場で捌けるかな?森に入れば小川とかあるかな?と考えながらふと思い出した、馬の死体を放置したら肉食獣が集まってきて危なくないか?と振り向くと荷馬車の影から怯え切った目でこちらを伺う少女...あ、忘れてた。

 少女はドイツの村娘の民族衣装のような服装で髪は金髪、目は緑色の瞳をしている、こりゃどう見ても日本人じゃないなー。

「ヘロー」

 英語は得意ではないがとりあえず挨拶したのだが少女はビクッと震えてさらに荷馬車に身を隠す。

 あれ?英語通じないのかな?

 その後ぐーてんもるげんだのじゃんぼだの思いつく限りの挨拶をしたがどれも通じてない様子、よし!最終手段だ!

「ヘイ!」

 俺は声をかけると少女がこっちを注目する、化け物イノシシを指差した後自分を親指で指し首をかき切るポーズ、そのあと少女を指差し胸に手を当てて安心したジェスチャー、これぞ必殺ボディランゲージ!

 英語は苦手だと言ったが街中で困っている外国人を見かけたら身振り手振りと単語で問題解決ぐらいできるのは良い歳してればわかるもの、少女を見るとコクコクと頷いている、俺は友達の輪ぐらいの大きな丸を作りこちらもうなずきニッコリスマイル、少女はそれを見て引きつったような笑顔を見せた。

 俺は自分の胸をポンポンと叩きながら「洋一」「洋一」「ヨーイチ」と何度も繰り返す。

 毛利洋一、誰あろう俺の名前だ、怪しい者じゃないアピールだな、大事なことだ。

 それを見て少女は怯えた顔をしながらだが胸に手を当て「メリル」と答えた。

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