第5話 見知らぬ平原と鳴らない電話

「どこだ…ここ?」

 意図せず言葉が出た。

 俺が居たのは山の中、結構な起伏がある場所だったはず、だが目の前に広がる景色は…見渡す限り一面の平原、樹木はまばらで芝生のような背の低い草だらけだ。

 小高い丘はあるようだが山の稜線はかけらも見えない。

 そもそも日本にこんな景色の場所があったか?少なくとも九州で思いつく場所はない、北海道あたりならあったりするのだろうか?

 そうだ!俺はスマホを取り出し地図アプリを開こうとして…電波がないことに気づく、昨夜はネットもつながっていたのに…。

 とりあえず開いてはみたが現在位置が表示されない…GPSも死んでいるのか?

 OK、落ち着け俺、一度コーヒーでも飲んで考えるんだ。

 幸い廻りは見晴らしも良く当座の危険はないようだ、まず一服して落ち着こう。

 コーヒーを入れながら思った、水をタンクに汲んでいてよかった…と、どうやってこの場所に移動したのかわからないが近くにあった沢が無くなっているのだ、水が無くなるのは命が無くなるのと同義だからな、酒は持ってきているが水分無しで酒ばかりなど飲めるはずもない、むしろ脱水になってしまうだろう。

 汲んでおいた水は20リットル、少なくはないが決して多くはない、まずは現在位置の把握と水の確保が急務だな、愛車のジムニーも満タンにしてきたがガソリンの残量にも注意しないといけないだろう、マイルドハイブリッドモデルとはいえ堅牢なラダーフレームを積んだ四駆は重量があるので乗用車に比べて燃費はそこま良くないのだ、走行可能距離は500キロも無いかもしれない。

 俺は電波の入らない鳴らない電話を取り出すとBOOKアプリを開く、オフラインでも読めるようにダウンロードした書籍の中からサバイバルブックを開くと欲しい情報のページを探す、文字検索で目的のページにたどり着く、いちいち索引で探さなくていいのは電子書籍の利点だな、と思いながら読む、なるほど、地平線までの距離は170センチの目線でおよそ5キロ…か意外と近いのか…しかし生まれてこの方半径5キロに人工物も山さえも無い場所など行ったことはないので実感がわかない、コーヒーを一口飲み深呼吸をして考える、なぜ俺はこんなところにいるのか?

 仮説1、ドッキリ説

 俺が寝ている間に睡眠薬等を盛られて移動、平原に放置…いや、無いな、そんな手の込んだ事をする友人もいなければTV局関係者もいない、番組であれば撮影されているだろうが見渡す限り撮影隊が隠れられるような場所は見当たらない、ドローンの類も見当たらないし今の俺を撮影するなら偵察衛星でもないと無理だろう。

 昨日設置したテントや愛車のジムニーの位置も基本的な配置は変わっていないので動かしたにしては違和感がありすぎる。

 仮説2、夢を見ている

 こんな非現実な場所は夢ぐらいしか考えられないがそれにしてはリアルすぎる。

 さっき淹れたコーヒーは時間経過とともにゆっくり冷めていっているし寝起きで腹も減っている、試しに頬を軽くはたいてみたがちゃんと痛い、夢じゃ…ないな。

 仮説3、異世界転移説

 いやいや、無い無い、だって異世界転移ってあれだろ?トラックに轢かれたりトラクターに轢かれたと勘違いして心臓麻痺になったりして起きたら女神様とか神様がいたりしてチート能力もらって無双する奴だろ?もしくは召喚されたりするやつ、おっさんラノベ好きだからそこらへんは抑えてるよ?さっきのBOOKアプリにもお気に入りのラノベ何シリーズか入れてきてるからね、無いわーそもそも神様も女神さまも転移魔方陣も見てないしないわー鏡みてもイケメン青年に若返ってもないし無いわー。

 仮説4、死後の…世界?

 さっき異世界とか無いわーって言ってたけどこっちのほうがありえるわー。

 愛車やキャンプギアは死んだときの調度品として付いてきたとしたらありえなくもないし、そもそも死後の世界なんか当たり前だけど行ったこと無いから詳しくは知らないけど。


 さて色々考えたけど結論は出ない、よし!まずは何かあるところ、できれば道があるところまで移動するか!

 俺はベースキャンプを片付け愛車に積み込み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る