第3話 獲物と捌きと保存食

 無事ベースキャンプを設置した俺はまず折りたたみテーブルにシングルバーナーを乗せ、ケトルで湯を沸かす。

 お気に入りのキリマンジャロの豆を取り出しハンディーミルで粗挽きにしてネルのフィルターに投入、ドリッパーにセットして沸騰を待つ。

 設置が終わればコーヒーを飲む、これがキャンプをするときの俺のルーティンである、山籠りであってもそこは崩したくない、男の拘りってヤツだ。

 ケトルがコトコトと音を立て湯が沸いたのを確認した俺はバーナーを消しケトルを手に取る、豆の上に少量のお湯を注ぎじっくりと蒸らす。

 その後お湯を注ぎ一気に抽出する。

 ゆっくりと香りを楽しみつつ一口、やっぱりキリマンジャロは良い、ブルーマウンテンの酸味も良いものだが自然の中ではキリマンジャロが一番好きだ。

 のんびりと自然と一体化していると木の上で物音がする、ムクドリだ。

 今日はゆっくりして明日から狩りに出ようかととも思っていたが獲物があちらからやってくるのであれば仕方がない、俺はそっとテントに入ると相棒を取り出しそのままポンプに空気を込める。

 そっとテントから出ると獲物はまだ警戒していないようなので周囲の安全を確認して狙いを定める...パスッ!

 圧縮空気の発射音とともに弾はムクドリの首元に命中、そのまま落ちてきた。

 ドサッ...と言う落下音と共に地面に落ちたエモノの元に駆け寄り一瞥する。

 元々釣りキャンプなどをしていたので魚を締める=命をいただくことに抵抗はないし狩猟のことを考えて養鶏場で生きたままの鶏を買い受けて締めるところから捌くところまでも一通り経験はしている。

 しかし遠距離から一瞬で命を奪う事、始めての獲物を得た喜びなど、いろんな感情がごちゃ混ぜになって押し寄せてくる。

 その感情を胸に持ちながら獲物を持ち上げ一言「ありがとう」と呟いた。

 きっとこの1ヶ月で俺は狩猟に慣れてしまうだろう、だがこの感情と感謝の気持ちだけは忘れないようにしようと心に誓った。


 俺は気持ちを切り替え準備をする、なんといっても初の獲物だ!感傷とは別に心は踊り出す!捌き方は調べてあるし困ったときのためにスマホにサバイバル教本もダウンロードしてある、ここは電波が入るがきっと電波のない狩場に行く事もあるだろう、困ったときに見ることができなければ意味がないからな。

 幸い内臓を傷付けることなく仕留められたので早速血抜きと羽むしりをして各部位に切り分けていく、せっかくの初の獲物だ、長く楽しみたいので鶏ハムならぬ鳥ハムを作り燻製して脱水して保存食として少しずつ食べる事にしよう、本当はソミュールに漬け込んだりする時間が欲しいのだが今回はクレイジーソルトをまぶしてお手軽方式で行こう!

 そうやって山籠り1日目の夜は更けて行くのだった。

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