第20話 アーサーのサバイバル講座

 トウカ一行はセーフティエリアを獲得した事もあり、一息つく事が可能となった。


 イベント開始からここまでの時間はわずか30分足らずである。

 他の一般的なパーティーはまだ、初期地点の周りの安全確認をしたり、何も考えずに動き回っていたりする。


 本来、プレイヤーの空腹度システムはこのゲームには存在していなかったが、このイベント中はサバイバルということもあり、空腹度、渇きシステムが実装されている。


 空腹、渇きは現実の物に近い感覚があり、空腹、渇きがMAXになった所で死ぬ事は無い。

 しかし、その状態を24時間放置すると餓死してしまい、強制リタイアとなってしまう。


 また、空腹度、渇き度は視界端に%表示されており、ある一定数下がるとその分ステータスに制限がかかってしまう。


 そのため、簡単には無視出来ない事案となっている。この説明は事前に送られてきた詳細にも書いてあった。



「ねぇ!みんな!!これからどうするの?」


「そうだな、当初の予定ではまずは付近の確認と安全確保、拠点作成だったが、安全確保は完了した。」

「では次に行う事は少しズレたが、ジークとランスロットには洞窟の付近の確認を行ってもらう。軽くでいい。10分、20分ぐらいで戻ってきてくれ。その後には食料の確保も頼む」


「おう!任せとけ!」

「了解だよぉ。」



 そう言ってジークといつの間にか復活していたランスロットがワープポータルに乗って外に出て行った。


「次にジャンヌ。君はここで過ごしやすい拠点を頼む。わずかとは言え滞在するのだ。少しでも良い環境に頼む。幸い、ここには水がある。それも活用したい。」


「わかったわ。」



 ジャンヌは魔法を使ってテキパキと拠点を作っていく。


「それではトウカ様。今後の予定を考えましょうか。」


「うん!でもアーサーはさっきから指示とか凄いし、このままリーダーになって決めてもいいんだよ?」


「いえ、トウカ様もいずれ、こうして指揮を取るようになるのです。その為にも見て学び、一緒に考えましょう。」


「えっ、私も?」


「はい。今はまだ何も無いですがいずれ御使い様みつかいさまとしての責務が発生します。その時の為にも私から少しでも盗んで下さい。」


「ほんとに?それはもう確定なの?」


「ほぼ確実に起きます。」


「そっかぁ…。」



 トウカはいずれ起きるだろうその時の事を考えて憂鬱となる。自分自身が好き勝手行動するのは大好きなのだが、他の人をまとめるのは大の苦手なのである。


「それではまず、トウカ様はこの後に私達が何をすべきだと思いますか?」


「えっ…何をって…。安全確保・・・?」


「それも本来は大事ですが、今回は既に完了しています。」


「えー、じゃあなんだろ…。」



 トウカは本能で動くタイプであり、考えるのも嫌いで頭を抱えてしまう。


「うーーーん、んんんーーー…。」


 ボンっそんな音がトウカの頭から聞こえた気がする。


「もうむり…。なんか食べたい・・・」


 普段使わない頭を使ってお腹が減った気がする。


「トウカ様。それが正解です。」


「ふぇ?」


「食料と水の確保です。我々人間は食料と水が無ければ生きられません。」

「まず、サバイバルを行う際に優先順位があります。」

「1.安全確保。2.水源確保。3.火の確保。4.食料確保。」

「これらの4つの順番で最優先で確保します。今回は幸いな事に安全と水の確保が容易に出来ました。水と火については魔法でも可能ですが、魔法使いがいない場合や、魔法使いがいてもレベルが低く、MPの少ない人だったら、水源の確保が必要になります。」


「ほぇーー」


 トウカは話を聞いているようで全部右から左へと流れている。アーサーはそれに気づかずに話し続ける。



「食料の確保も水の確保と同じくらい大事でですが、人間は水だけでも当分の間は生きていけます。しかし、それだけでは辛いので、食料確保もかなり大事です。」


「拠点については野宿だとやはり精神的苦痛もあるので、サバイバルを長く行うには拠点はある方がいいです。そして、我々はそれぞれの分野に長けた者の集まり。ジークとランスロットはサバイバルが得意。ジャンヌは魔法による拠点作成、水、火の確保。そして私は指揮を執る。」


「我々は高レベルでもあるのでそう簡単に殺られる事も無いので、あまり心配する必要は無いのですけどね。」



「わかった!」


 トウカは本当は分かっていないけど、そうやって元気良く返事をするのだった。


「とりあえず今は皆のやる事が終わり戻ってくるのを待つことにしよう。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 およそ30分後


 ジャンヌの拠点造りが終了し、ジークとランスロットも戻ってきた。


 先に終わったのはジャンヌだった。

 先にとは言ったが、とても早く終わっている。

 

「トウカ、アーサー。拠点出来たけど、どう?」


 トウカは近くで話していた事もあって、拠点作成の経過を見ていた。


 その様子はとても凄かった。


 ある程度凸凹していた土地があっという間に平坦な土地になり、土台、骨組みが一瞬で造られて、現実なら2~3日かかる工程がわずか数十秒で出来たのだ。


 その後の工程も素早く、家の形になるまで5分に満たなかった。

 見た目としてはレンガ造りの一戸建てといった感じだ。

 何に時間がかかったのか、と言ったら内装らしい。



「あぁ、いつも通り見事な手際だ。見知らぬ土地で安全に生活できる場所があるなんて、そうは無いだろう。」


「わぁ〜すごい・・・魔法ってこんなことも出来るんだ…。」


「そうよ。トウカ。ここは狭いからこれだけど、もっと広い土地だったらお城だって作れるんだから!」


 ジャンヌはドヤ顔をしながら私は凄いんだぞっ!っというアピールをしている。

 ジャンヌは顔が整っているため、ドヤ顔をしてもウザイとか思わなく、寧ろそれが美しさを引き出している。


「ちなみに、外見だけじゃなくて、ちゃんと中も作ってあるのよ。」


 ジャンヌは家の方へ行き扉を開ける。

 トウカとアーサーもそれに続いていく。


「わぁ!すっごい!」


 洞窟の中の家とは思えないぐらいしっかりしていた。それこそ、リアルのトウカの部屋よりも綺麗である。

 どこから持ってきたのか、テーブルに人数分のソファ。さらに、サイズは小さいが人数分のベッドまである。部屋は男女の2つに区切られており、プライベートも守られるようになっていた。


「どう?良いでしょう。」


「あぁ、よく出来てる。ジャンヌ、感謝する。」


「うん!すっごいよ!!ベッドもふかふか!」

(家のより良い物かも・・・)


 トウカは子供のようにはしゃいでベッドで跳ねている。

 そうこうしていると、家の外が騒がしくなる。ガハハハハハと豪快な笑い声が近づいてくる。ジークとランスロットが帰ってきたのだ。


 家の扉がドカンと激しく開けられる。


「おぅ!帰ったぞ!!」


「・・・・・・戻ったよぉ…。」


 いつも通り元気なジークと疲れた顔のランスロットだ。


「コラ!ジーク!!扉は優しく開けなさいっていつも言ってるでしょ!!!壊れたらどうするの!!」


「ガハハハハハ!すまんすまん!次から気をつける!ガハハハハハ!」


 ものすごい剣幕で怒るジャンヌと何も気にしていないジークだ。

 そんな2人のやり取りを他所にアーサーとランスロットが話を始める。


「それではランスロット。付近はどうだった?」


「ゴブリンの巣があったぐらいで、平和だったよぉ。師匠ジークに振り回されて大変だったけど…。」

「あっ、あとそのゴブリンの巣にこれがあったよぉ。」

「トウカちゃんが必要なんでしょ?僕は興味無いからねぇ。はい。」


 そう言ってトウカに渡されたのは碧玉のオーブ1つであった。

 

「あっ、ありがとう!」


「ここにあったのは5つ。ゴブリンの巣は1つ。一緒にいたパーティーメンバーの人数じゃないのか?ふむ…。」


 アーサーは碧玉のオーブの個数に疑問を思ったらしく1人で考え込んでいる。


(そんなに気にする事かな?)


(トウカちゃんはかわいいなぁ)


 そんな事はどうでもいいと脳天気なトウカとそれを見つめるランスロットであった。




____________________



碧玉のオーブ 現在6個


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