橋の上で

「……ん?」


 ふと何か気が付いたのか隊長が微かに遠くに見える町の方を眺めました。


「どうかしましたか?隊長」


「いや、何でもない」


 そう言って首を振ってお菓子を食べました。


 お菓子を食べながら過ごす事数十分、その間ずっと私はお菓子を食べながら川を眺めています。たまに川から跳ねた魚を数えて水面に反射する雲が何かに似ていないかなと想像をしていました。

あ、今の雲グレネードに似てる気がします。


「ナギさん達大丈夫でしょうか?」


「さっきも言っていなかったか?まぁ心配なのはわかるが」


 隊長は苦笑いを浮かべながら箱からお菓子を一本取り出して咥えました。そうずっと同じことを話しています。でもそれしか話すことがないんです。何もないって辛いですし、ずっと隊長黙っているので気まずかったんですよね。なら話さなければいいじゃないかと思われるかもしれませんが、私だって本当は向こうに行きたい気持ちを抑える為に何か気を逸らしたい為に話をしたいんですよ。


「え?心配なんですか?」


「ああ、見えてナギは多分想定外の事態には弱い所があるんだ。転移者の対処を任せた時に少し助言をしようかとも考えたが、本人が一生懸命資料を照らし合わせて考えているのを見て口をはさみたくなかったのだ」


「何も言わなかったんですか?」


「ああ、ナギも私の部隊に来てからそれなりに実践と経験を積んでいる。想定外の事態さえ起きなければ大丈夫のはずだ」


 何かフラグっぽいですね。


 ナギさんって創造課からの異動で配属になったんでしたっけ?そのあたりの話を聞いたことがありませんでしたね。話題作りには最適だと思います。


「ナギが対策課に入ったわけ?」


「はい、私が作られてからそれなりに日が経ちますけどナギさんみたいに他の課から移動になったという話は聞いたことが無いので気になりまして、隊長なら知っているのではと思いました」


「そうか……これ話していいのか?いや、本人は話していいと言っていた気がするな‥‥よし」


 隊長は顔を伏せて何か少し考えていましたが、少ししてから顔を上げました。


「では、まずはナギが来た時の話をしようか、ナギが対策課に来たのはバロックが作られたほぼ直後だったんだ。当時の私の部隊はあまり思い出したくないから少し省くが、人数が少なくていたのは私とユッカと新人のバロックだけだったんだ」


 そのあたりの話はバロックさんから何となく聞いています。バロックさんが初めましてをしたら二人しかいなくてビックリしたそうです。


「当時は人数が少なくてまともに仕事が出来なくてな、でも二人しかいないのに新人をもう一人増やすことは難しいからどうにか出来ないか考えていたんだ。そしたら上から異動で配属先を探している人がいると連絡を受けて、これ幸いと飛びついたんだ」


 異動で入ってくる人は新人の人に比べて要領がよくて、仕事についてのある程度の知識も持っているので新人よりは負担が少なくて済むそうです。

そこの話はナギさんとバロックさんからも聞いています。二人とも転移課として見ればバロックさんが一応先輩、年で言ったらナギさんが先輩になるので、今でもお互いに気を使って敬語で話していると聞きました。


「それで何とか仕事を出来る程度には部隊が動き始めてな。それからは仕事を捌きながら新人を入れて人数を増やしていって今の状態になったんだ」


「それでも、心配なのは事実だ。他の皆がカバーしている」


「ナギさんってそんなに弱点とかなさそうなんですけど」


 公私ともにナギさんとはそれなりに付き合いがある私ですが、そんな風には見えませんでした。


「いや、私達は完璧な個体として作られたりは絶対にないからな。ナギの場合は私達よりも身体能力が劣っている点だな」


 え?ナギさん劣っているんですか?普段の訓練とかでは劣っているなんてあまり感じませんが、


「無論一般人よりは少し強いのだが、元々対策課に配属目的で作られた私達よりは創造課で働くことを目的で作られた個体よりは少し劣っているのだ。創造課は装備のメンテナンスや制作を主な業務内容としている。その中でもナギはその中でも頭を使う仕事にいいたんだ。ナギが作られた時は戦闘よりは事務作業などをメインにするために作られたんだ」


 創造課の仕事は基本的に頭脳労働が大半で設計や素材決めが主な仕事内容です。組み立てや溶接もあるにはあるのですがそこには機材を使うので前者よりは後者の方が時間がかかるみたいですし、出来た装備は自分たちよりも私達が試してもらい出てきた意見を反映して再設計が主な創造課での仕事内容です。部品に関しては『ソ』が生み出すので時間はかかりません。捨てるのも『ソ』の中に入れるだけなので簡単です。


「それが原因でナギは私達よりも身体能力が少し劣っている。この部隊でナギだけが盾を持っているのは無理に躱すよりも防御して受け止めた方が自分の為になると判断したからあの装備になったんだ」


 ナギさんの装備にそんな理由があったんですね。


「だから、ナギに任せる時は少し不安だった。しかし、ユッカは駄目だし、バロックを頼るよりはナギの方がいいし、セラはまだ早すぎる。そうは思いナギに任せたが一応出発前に『失敗は仕方ないが誰かが死ぬのは駄目だ。不味い、危ない、そう少しでも思ったら即時撤退して私達と合流するんだ』と声をかけておいた」


 私が言うのも何ですがセラさんは分かります。バロックさんも…まぁ…何となくわかります。でも、あの中で一番長く隊長といるのに真っ先の除外されるユッカさん…。むしろお互いを知っているからこそなのでしょうか。


「それにしても言うだけなんですか?もっとアドバイスとか言わないんですか?」


「ああ、私が言いすぎるとかえって緊張して重荷になってしまうかもしれないから、言いたい気持ちをぐっと抑えたつもりだ。アドバイスもナギに聞かれた時は答えた。それにこう言っているが私はナギを信じているからな。死なずに帰ってくれば御の字だ。それ以上は望まないようにしている」


 確かに余計な事を言ってナギさんが迷ってしまって皆さんが大変な目に遭うよりは良さそうに思えます。隊長の話が本当なら、ただでさえナギさんは戦闘が大変なのにそれ以上負担を負わせるのはやめた方が良い気がします。でも、そこまでのハンデを背負ってでもナギさんがここに来た理由って何でしょう?


「でも、ナギさんってどうしてそんなハンデを持ってでもここに異動したんですか?」


「それは……」


 そこまで言うと隊長は突然話すのを止めてポッケを触りました。


「隊長?」


「……こうなったか…アイビー武器を構えろ」

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