殺しよりも命優先

「無駄ですよ~」


 そう言って前もって話した通りにセラさんが銃口を壁を作ろうとしている植物に向けてしまいます。まずい、非常に不味いです。何とかして止めないと、と思いながらユッカさんの方を見ると全力で扉の方にダッシュしています。


こら、止めるの手伝ってくださいよ先輩。


「セラさん!待って…」


 仕方ないので私がセラさんに撃つのを止めるように言おうとしますが、既にセラさんが引き金を引いてしまいセラさんの銃から発射された銃弾は目の前にある木を粉砕して一瞬してしまいました。粉砕された木はバラバラになりながらも成長を続けて枝の先に実をなっていますがそれすらもセラさんの弾幕が粉砕していきます。


 いつもなら上出来なのですが今は少しまずいです。


「セラさん止めてください!」


 声を出してもセラさんが撃っている銃の発砲音にかき消されて聞こえそうにないので、セラさんに直接近づいて腕を引っ張って止めます。


「え?どうしてですか~?」


 セラさんは不思議そうに聞き返しますが私の言う通り撃つのをやめますが既に目の前にあった木は跡形もなく粉砕しちゃってます。見るとセラさんの服とかに受益が付いちゃってるのでヤバイです。


「今しがたセラさんが粉砕しちゃった木なんですけど、転移者の言っていた通りの代物なら危険な毒物が含まれているが高いんです。」


 マンチニール、確かどこぞの世界で最も危険な木として世界記録を持っている植物だったはずです。樹液一滴皮膚に触れるだけでも命の危険があるかもしれません。


 完全に予想外です。一応植物を操る能力を持っているとは聞いていたので、一応この世界の植物の知識を一通り叩き込んできて、解毒剤も一応持ち込んでおいたのに、それなのにまさか転移者が元々いた世界の植物をそっくりそのまま持っているなんて…神様って自分の管理している世界の生態系とか考えたことがあるのでしょうか?自分の不祥事隠したい一心でさらに罪が増えるとかふざけてますよ。今回の植物を焼却処分する時に近づけてやりましょうか、さぞいい声で懺悔の言葉を拝聴することが出来るでしょう。


 …いえ、今はそんなことより早くこの場から離れてセラさん、その他諸々についたマンチニールの樹液を洗い流さないと。今回は特に念入りにやらないと下手すると仕事中は使い物にならなくなってしまうかもしれません。


「でも、転移者が~」


「確かに転移者も大切です。でも、そっちよりも我が身です。下手すると動けなくなりますよ!」


 この植物の毒性がどれほどの物かは分かりません。でも仮にもその世界の世界記録に登録されている物ですので半端じゃないのはわかります。


 無理に追いかけて下手な所で動けなくなり兵士たちに囲まれて殺されるよりかは、一刻も早く離れて水で洗い流すか、吸い出すかして追いかける方が賢明です。


 …本当は向こうに任せることになってしまうのが気がかりですが、それよりも私達です。


「敵はまだ来てないっスよ」


 ユッカさんが廊下を見ながら知らせてくれます。なるほど、危険性を知っていて素早く撤退が出来るように動いてくれていたのですね。ぶん殴ってやろうかと考えていましたが、取り消しましょう。デコピン一発で許すことにします。


 後はバロックさんを回収して、そこまで考え振り返るとまた予想外な出来事が起きました。

先ほど粉砕されていた木とは別の木が成長して天井を突き破っています。そしてその木から落ちて行った果実から新しい苗木が生えています。あの転移者の能力ってその場で実った種子にも影響するんですか?!というかここ仮にも婚約者の実家でしょう?もっと配慮とか安全に気を付けなさいよ!アホなんじゃないの?!


 アホのアホな事に巻き込まれて死にたくはありません一刻も早く外に出て隊長とアイビーさんに合流しましょう。


「バロックさん行きますよ!」


 そう言ってまだ戦闘中のバロックさんに声をかけます。


 バロックさんとメイドのフローラさんとの戦闘は続いていますが、先ほどのセラさんの発砲音に一瞬気を取られた隙にバロックさんに一発いいのを貰っていたようで状況はバロックさん優位で進んでいます。しかし、まさか素手ゴロと見せかけて太もものレッグホルダーにナイフを仕込んでいたとは驚きです。ただガントレットで手を覆っているバロックさん相手ではナイフは掴んで砕かれて終わりなのであまり意味がありませんでしたね。


「もう少し待ってください。あとちょっとで終わるので!」


 そう言ってバロックさんは連撃をかまし始めました。相手のメイドさんもうまいこと躱していますが流石に転移者程ではないのですぐに隙が生まれます。そこを見逃さず、がら空きのお腹にバロックさんのアッパーが鋭く突き刺さりました。お腹にいいのが入るとしばらくの間呼吸が出来なくてものすごく辛いんですよね。


 メイドさんは天井に届くほど打ち上がった後に部屋にあるテーブルに墜落しました。


「え、バロックさん大丈夫ですか?殺してないですよね?」


 余りに豪快にテーブルに落下した姿を見て心配になります。私達が殺すのはあくまで転移者・転生者のみですので一般人を直接殺してしまうのは非常にメンド……いえ、非常に不味いのですが、大丈夫でしょうか?


「大丈夫です。あれでも手加減しました。…まぁ、瓦礫に潰されるかは知りませんが」


「なら大丈夫ですね。さて、バロックさん聞いていたでしょう?撤退して消毒、出来なければ行動不能の人が出たら送り返して残ったメンバーで隊長に合流します」


 あくまで私達は直接一般人を殺すことに関しては禁止されていますが、例えば私達が気絶させた兵士が他の誰かに踏まれて死んでしまった場合等、間接的要因での死は罪になりません。かといって狙ってやるほど私達も余裕があるわけでは無いのでやっていません。


「わかりました」


 ともかく、ひとまず逃げましょう。


 体の節々にかゆみを感じながら、私達は急いで来た道を全力で走って戻ります。途中起き上がっている兵士も起き上がって武器を構える兵士も全力で無視して駆け抜けます。段々とかゆみが痛さに変わるのを感じながら屋敷から出て全力で逃走します。そうして敷地内から悠然と逃げ切り物影に隠れることが出来たと同時にシャレにならない程の痛さが全身を駆け巡りました。

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