橋の下にて会敵

「武器を構えろ」


 そう言って隊長は空になったお菓子の箱をひっくり返して振り、底に残っている細かいお菓子の破片を口に入れてから懐に仕舞いました。


 何が起きたのか分かりませんが、私も持っていたお菓子を急いで口に入れて地面に置いていたWA2000を持ちました。隊長は腰にある刀を抜いて橋げたから忍者みたいな体運びで下に降りて行きました。……私はそんな事出来ないので素直に端から河原に降りて行きます。そうして橋の下で合流しました。


「それで隊長一体何があったんですか?」


「ん?それを今から確かめるんだ」


 隊長は上着のポッケから何かブルブルとバイブレーションしているいつのも通信機を取り出して耳に付けて何かボタンをポチポチと操作を始めました。そう言えば今回は私に通信機渡されていませんね。


「あの隊長、今回私って通信機持ってないですよね」


「そうだな、アイビーは待機と知れば向こうにコンタクトを取ろうとすると予想して渡さなかったんだ。そして一応私も持ってはいたが、マナーモードにしてポッケに入れておいたんだ。私もずっとつけていると心配でマメに連絡を取ってしまい、ナギの邪魔をしてしまうからな」


 それって大丈夫なのでしょうか?もし、それが緊急性のある連絡だったら危ないではないでしょうか?そんな心配をよそに隊長は通信機を使って多分ナギさんに連絡を取っています。

私は完全に手持ち無沙汰になったので、何気なく隠し通路の出口になっているらしい排水口を覗き込みます。


 腐ったようなにおいが鼻につきこれぞ下水道と言った匂いがします。前にハルさん達と一緒に依頼を受けたことを思い出します。あの時は大きなネズミが出てきて大変でしたね。しかも奥にあった部屋には銃がありましたし、あの世界大丈夫なのでしょうか…。『オーバーテクノロジーで文明何て簡単に滅ぶッス』とユッカさんも話していたのでこの仕事が終わったら一度様子を見に行ってみましょう。


 ……終わらせなくちゃいけないんですよね。あの二人が幸せになることは駄目なことだと決まっています。転移者に同情をしてはいけないと隊長も最初の仕事の時に言っていました。でも、私は…


 そこまで考えていると何か排水口の奥から何か音が聞こえる気がします。何か…複数人が全力で走っているような、そんな音です。そしてその音は段々と近づいているような気がします。


「アイビー」


 通信を終えた隊長が私の後ろから声をかけました。その顔は少し残念そうな、嫌そうな顔をしています。


「隊長、どうかしましたか?」


 私はその隊長の顔に一抹の不安を感じますが気づかないふりをして隊長に何があったのか聞き返します。


「ああ……そうだな…うん…ナギ達が転移者の処理に失敗した。現在、転移者が婚約者を連れてここ、つまり隠し通路を使ってここに逃走しているそうだ」


 私の予想通りではありますが間違っていてほしかったです。


「そう…ですか」


 隊長は何かやりきれないような感じで頭を掻いて悩んだ後に決意したように唸った後


「…正直これを言っていいかは分からない。余計なお世話かもしれないが言わせてもらおう。アイビー今からでも遅くはない、少しだけ…転移者が処理するまで離れないか?」


「え?」


「仕事は全員参加が上の指示だ。しかし、私としてはアイビーにやらせたくはなかったので、ここに配置した。だからこのような事になったら、アイビーは外そうかとは思っていたんだ」


「…」


「…だがアイビーの覚悟は訓練を見ると出来ているようだから一応聞いて見ることにした。どうだ?嫌なら離れてもいいのだぞ?」


 隊長は優しいと私は思います。他の部隊の事情を私は知らないので比べることは出来ませんが、私の個人的な問題を隊長が心配してくれるのはとてもやさしいと感じます。そしてその行為に甘えたい気持ちもありますが、私は参加します。


「…いえ、私は参加します」


「……そうか」


 そう言うと隊長は少し目を閉じて再び開きました。


「なら、私からは何も言うことはない。転移者は私が、婚約者の方はアイビーが無力化してくれ……ああ、あと邪魔をされると面倒だから距離を離してくれると助かる」


「…わかりました」


 私の返事を聞いて隊長は頷いて刀を持って通路の脇に立って背中をあずけました。…え?入らないんですか?


「あの突入しないんですか?」


 足音は大きくなっているので、通路に入って不意打ちでもするつもりなのかと考えていましたが違うのでしょうか?


「ああ、狭い通路で戦闘をすると婚約者に誤射や間違って攻撃を加える可能性が高いから、広い河川で戦闘を出した方が良いと思って待っているんだ」


 確かに水が流れている隣にある通路は並んで移動できるほど広くはありません。私達が通路に突入した場合に二人と会った場合にフレアさんを危険にさらしてしまう可能性を考えるとここは通路に突入せずに待っていた方が良い気がします。


 私も通路の正面に立たないで通路の出口の上に立って二人が出てくるのを待つことにします。

そうしていると待っていると奥から走ってくる足音が大きくなってきて、同時に荒い息遣いのような物も聞こえてきました。


 私は立ち上がり通路を見下ろしていると二つの人影が通路から出てきました。その姿は間違いなくフレアさんとイサナさんです。


「ここまでくれば奴らも追ってはこないだろう!」


 そう言ってフレアさんは膝に手をついて肩で息を切らせながら一息ついていました。イサナさんはフレアさんに近づいてハンカチを取り出して差し出します。それと同時にポッケから何かを取り出して地面に撒きました。すると地面から植物が生えて何か葉っぱのような物が蓋をしているツボのような植物が生えてきました。イサナさんはそのツボの一つを摘んでフレアさんに渡しました。


「そうですね。しかし、フローラが心配です。大丈夫でしょうか…」


「信じるしかないですよ。それよりも、もっと離れないといつ追ってくるか…」


 イサナさんから渡されたハンカチで汗を拭って、渡されたツボのような植物のふたを取って中身を飲み干しました。


「分かっています。私はこれでも貴族の娘です。そのあたりの覚悟は持っています」


「では、その覚悟を不意にしてしまって申し訳ないが、お邪魔させてもらうぞ」


 タイミングを見計らって隊長が会話に割り込んできました。私もそれに続いてお二人の前に姿を見せます。

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