戦闘始まらない

「なんで…ナギさんがここに」


 フレアさんが信じられないような顔をしながら私に向かって問いかける。敵が来ることは想定していましたが、まさか自身の知り合いがやってくるとは露にも思ってなかったようです。


「なんで、って仕事だからですよ」


 私の答えを聞いてフレアさんはそうじゃないと首を振って否定します。


「そうではないのです!どうして貴方がここにいるんですか?!」


 そう叫ぶ彼女の目には涙が浮かんでいます。頭では私達が侵入者であり敵であるのは分かっているようですが理解をしたくないのか私にすがるように叫びます。


「そう言われましても…たまたま今回食事をしたそこのイサナさんが違法転移者であっただけで、そして私の仕事が違法転移者の殺害でたまたま今回の仕事の話が私に割り振られただけなので不幸としか言いようがありません」


 私だって好き好んで友人の知り合いを悲しませたくはありませんが、これも仕事です。巡り合わせが悪いとして諦めて欲しいのですが、そう簡単にはいかないのはお二人の顔を見れば分かります。フレアさんは涙ながらに必死に話していて片や転移者は目を瞑って必死に考えているのか目を開きません。


 殺すのは絶好のチャンスですが、私は何か話そうとした転生者に目掛けて発砲した隊長ほど鬼畜ではないのでここで攻撃はしません。そして必死に自分が納得できるまで話しているフレアさんを無視する程人としての心は失っていません。


「そうでは…そうではなくて…」


 どうして貴方がそこに立っているのですか?


 フレアさんはそう言いたいのでしょう。理由ではなく理屈、立っている理由というより何故立つことになっているのかを聞きたいのでしょう。もしくは聞きたくないから同じ質問をしているのかのどちらかでしょう。


「…アイビーさんもあなた達といるのですか?もしかして、初めからそれが目的で私達に近づいたのですか?」


 沈黙を貫いていた転移者がここで目を開いて質問をしてきました。


「彼女はここにはいません。彼女と親しい関係であるのは分かっていますので、あなた達とは離すようにしています。そしてもう一つの質問ですが、ありえません。アイビーさんはこんな事を知らずにフレアさんに近づいたんです。これだけは信じて死んでほしいです」


「そうですか、分かりました。ですが、死ぬわけにはいきません」


 ポッケに手を入れながらそう答える彼を見て私はスタンロッドを仕舞って腰に差している剣を抜いて構えます。明らかな殺意をこちらに向けてくれました。後はそちらの女性が覚悟完了してくれると助かるのですがまだの様ですね。でも、覚悟が完了していないということはこちらに手出しする可能性は低いので無視しても構いませんね。とりあえずは転移者に集中してもいい気がします。


「いいえ、殺します。必ず」


 ここではフレアさんを巻き込んでしまう可能性があるのでここではセラさんの弾幕で転移者をハチの巣にしてもらうことは出来ません。それに…


 そこまで考えていると横に動く影が一つ私に近づいてるのが見えました。私は影が来ている方向に体を向けて左腕にある盾を前に押し出して防御をする。次の瞬間盾に衝撃が走り私の体が少し後ろにおされる。かといってそのままでいる訳にもいかないから力を入れて盾を振り抜いて追撃を止める。人影は追撃を止めてフレアさんの前に庇うようして立って拳を構えます。その姿はメイドでした。しかも何となく見覚えがあるような…。


「フローラ!」


 フレアさんの声を聞いて思い出します。そうだ、あの時アイビーさんと行った食事処でフレアさんを追いかけてきたメイドさんです。あの時とは違いこちらに敵意を向けて手にメリケンサックを付けています。予想外だったのか存在を忘れていたのか転移者が呆気にとられています。どちらにしてもお互い出鼻をくじかれた形になりました。


「お嬢様、急いでイサナ様を連れて避難を、ここは私が足止めを」


「フローラ何を言って…」


 余りの突然すぎる出来事にフレアさんが戸惑いながらフローラさんに問いかけています。


「お嬢様詳しく話していられる余裕はありません。避難してください」


「でも、ナギさんはアイビーさんの…」


「しっかりしてください!旦那様はあなたを大丈夫と言ったので、それを信じてここを任せたのですよ!あなたがしっかりしなくてどうするのですか」


 そう言われて何かを思い出したのか戸惑いはまだ残っていますが、フローラさんの言葉に頷いて転移者の袖を掴みました。


「行きましょう、イサナ様」


「避難って言ったってどこに避難するんですか?出入口は塞がれていますけど」


「いいから早く」


 そう言って駆け出す直前に私の方に一瞬目を向けた後に机の下に潜り込もうとします。頭に叩き込んだ見取り図を照らすと確かその辺りに隠し通路の入口がありますね。そんなの想定通りです


「ユッカさん!」


「話が長いっスよ!」


 ユッカさんが愚痴りながら今まで使っていたテーザーガンを捨ててホルスターにある拳銃を取り出して転移者に標準を合わせます。今回ユッカさんが持っているのはスタームルガー・スーパー・ブラックホーク、強力なマグナム弾を使用することのできるリボルバーになります。ごつくて大変カッコいいです。


「させません!」


 私達が何をしているのかは分からない様でしたが、何かよからぬ雰囲気を感じてかフローラさんがユッカさん目掛けて駆け出しますがそれを通せんぼするようにバロックさんが通せんぼをします。もしユッカさんと転移者の間に入ってしまうと間違えて殺してしまう危険があるので同じく拳で戦うバロックさんに任せます。


 ユッカさんは両手で構えて間違えてフレアさんに当てないように慎重に照準を合わせます。

転移者は元の世界の知識からユッカさんが持っている物が何なのか分かっているようで急いでポッケから布に包まれた物を取り出して私達に投げつけました。


しかし、転移者の能力が分かっている私達が何も対策をしないわけではありません。今回のユッカさんの銃は威力の高いマグナム弾が撃てる物をチョイスしました。蔓系の植物を出してもそれすら貫通して転移者を傷つけることが出来ます。木を育ててもセラさんの弾幕で突破できるように前もって二人に話を通しています。


「急速成長!マンチニール!」


 転移者が手を翳してそう唱えると布の中からメキメキと音を立てて成長します。

…待ってくださいその名前は確か!

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