嬉しくない当たり前の再会

 目の前で剣を振り振りかぶっている兵隊の脇にスタンロッドと押し当てて電流を流して無力化する。体の自由が効かなくなり倒れ伏した兵士を踏まれないように最後の一人を脇にどかして片づけます。


 寄せ来る敵を叩いては投げ叩いては投げてを繰り返す事数十分、長かった門から屋敷に続く道に群がっている兵隊たちを突破して何とか扉の前までたどり着きました。一人一人の強さはそれほどでもありませんでしたが、兵士としての連携と数のせいで少してこずってしまいました。


 まぁ、それでも私達を傷つけることは出来ないので、それよりも電流による無力化があくまで一時的な物なので、あまり長時間いると動けるようになってしまい挟み撃ちされる危険性があります。そうなると失敗の可能性が格段に高くなるので急ぐことにしましょう。そう思いながらドアノブに手をかけようとしてとある考えを思い浮かんで手を止めます。


「…ところで、これって開けていいのでしょうか?」


 屋敷に続く扉の前で私は悩みます。


「いや、いいんじゃないですか?わざわざノックをしたとしても丁寧に相手が開けることもしないと思いますし」


「いえ、開けるのは確定なのですが、罠が仕掛けられていないかと勘ぐってしまって…」


 こうドアノブを捻ったら爆発したり、鍵穴から毒矢が出たりしないかと勘ぐってしまいます。今回の仕事は私達がお願いしたのも原因ではありますが隊長から任せられたので失敗はしたくないので、ちょっと怖いです。万が一私のミスで皆さんが怪我をしてしまうのかと考えてしまうと進むのをためらってしまいます。


 もう少し安全な方法があるのではないかと考えてしまいます。ほら、そこの窓からダイブするとかすれば安全では…いえ、窓の破片が刺さりそうで怖いですね。何か他の方法を考えないと…


「なら、こうすればいいっスよ」


 ユッカさんが近づいて扉を思いっきり蹴ってド派手な破壊音と共に蹴破りました。私が見ている前でドアが屋敷の奥に吹っ飛んでいき、屋敷の中の方から悲鳴とどよめいている声が聞こえます。…解決はしましたがそれでいいのかと疑問に思います。いえ、別の手段が考えつくのかと言われるとそうでもないのですが、ちょっと野蛮すぎませんかね?もう少し爆破とかで突破した方が安全な気がするのですが、とにかく無事?に扉があいたので中に突入します。


「ありがとうございますユッカさん」


 隊長やアイビーさん以外が言うと調子に乗るのでコッソリと小声で言っておきます。





「多分ここですね」


 館の中にいる兵士と戦いながら移動して、とある扉の前で私達が立ち止まって確認をします。明らかに豪華な両開きの扉、そしてアイビーさんからの話から推測して、ここはここの屋敷の人達が食事をする時に利用している食堂ですね。


「兵士の配置からして多分そうですよ~」


 そう言ってセラさんが不満そうな声を出しながら、今まで歩いていた通路を見ています。セラさんの使う武器って殺傷能力が高すぎるので一般人相手にはもちろん使えませんし、武器の重量が大きすぎるので動きにくいのであまり前の方の戦闘に参加できなくてストレスが溜まっているんですかね?


 でもセラさんの弾幕は転移者相手にとても有効なので助かっている事の方が多いんですよね。あの弾幕を一人に向けて撃てば防御する術を持たない転移者、転生者はハチの巣になりますし、防御してもある程度意識が割かれるので攻撃の起点になるので便利なんですよね。


「まぁ、いなかったとしてもここからおめおめと逃げ出すほど転移者も意気地なしでなければいいっスね」


「そうですね。それにしてもここの人達は馬鹿ですよね。無駄だと分かっているのに必死に守って笑えてきますよね」


 そう言って転移者をせせら笑いながらユッカさんがドアノブに手をかけました。何か巨大

なものがぶつかったような音がしてドアが当然私の方向に向かって爆発します。咄嗟にユッカさんの襟をつかみながらもう片方の腕につけていた盾を構えると吹き飛んだ扉の破片が盾に当たる感覚がします。


「誰が意気地なしだ!」


 扉が壊れたことで起きた煙が晴れ止まぬ中煙の向こうから、一度聞いたことのある怒りに満ちた声が聞こえます。


「ここが正解のようですね」


 転移者の記録を参照するに今回の転移者は転移してから少し怒りっぽい性格をしているみたいです。特に転移者よりもその周りの親しい人を馬鹿にされたりすると強く怒るみたいで、先ほどのユッカさんとバロックさんの会話は転移者が隠れていても分かるように一芝居撃ってもらって部屋の中にいる転移者を炙り出すためにわざと行いました。


 私自身としてはあまりこういう手段は好きではありませんが、勝つための手段と言うなら仕方ありません。さて、次の手を打つとしましょう。煙が晴れてきてお互いに姿がうっすらと見えるようになったので、お互いの姿を見えるように煙の中を進んでいきます。


 歩いている間転移者からの攻撃はありません。いえ出来ないと言った方が良いでしょうか、その顔には先ほどの怒っているような口調とは違い明らかな動揺が見えます。戸惑っていると言った方が正しいでしょうか?最初は怒りに満ちた表情をしていましたが、私の姿が段々と見えてくるにしたがって今のような顔になりました。そして、隣には信じられないような顔をしている少女…フレアさんがいます。


「な、どうして貴方がここに…」


 ワナワナと震えている口を開いて何とか言葉を絞り出しています。仕方ありません、友達が紹介した人が翌日のニュースで逮捕されていると報道された時見たな気持ちなのでしょう。でも知り合いだからとホイホイ信じてしまうお二人もどうかと思いますが、それはお二人の美点なのでしょうから深くは追及しませんし、そんな雰囲気でもありません。ここはあくまで悪役らしくわざとらしくいきましょう。


「どうして、ですか?理由は一つしかないと思いますが…まぁここで改めて自己紹介をしましょうか」


 そう言ってわざとらしく一礼をして改めて自己紹介をお二人にします。


「では改めて初めまして勇魚さん。私は異世界転移・転生対策課753部隊所属のナギです。本日は交渉課からもありましたように転移者である天野勇魚さんの命をいただきにまいりました」

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