下にある物

「…何もないな」




 しばらくの間、向こうからの攻撃とかを警戒しながら進んでいたが全くと言っていいほど攻撃が来ない。




「私思ったんですけど~向こうは私達との戦闘よりもどこかに行くのを優先しているので妨害してきた時以外は攻撃してこないんじゃないですか~?」




「…そうだな、その通りだな」




 寧ろ走りながら後ろを向いて攻撃する方が無理がある。前を向きながら魔法攻撃くらいなら出来るかもしれないが、魔法は発射速度がまだ遅い方だから何とかなるな。




「よし、走るぞ」




「了解で~す」




 刀を右手に持った状態で通路の奥を全力で駆け出す。今までゆっくり走っていたから向こうとはのんびり歩いていな限り突き放されているだろう。少なくとも追われていることが分かっているのなら呑気に散歩気分で歩きはしないだろう。


時折後ろを見てセラが付いて来ていることを確認しながら進んで数分が経った頃にあることに気が付く




「何か熱くないか?」




 足元からじわじわと周りの気温が上がっている。普通洞窟の温度は例外を除いて外の気温より少し低く、そして一定を保っているはずだ。しかし、私達が奥に進むにつれて段々と温度が高くなっているのがわかる。今が仕事でなければもっと薄い服に着替えたいところだ。




「ですね~。転移者が何かしているのでしょうか?」




 確かに以前アイビー達が戦った転移者は竜になる前は火の魔法を使っていたから今回の転移者も魔法が使える可能性が高い。




「そうだな、少し危険な感じがするから急ぐことにしよう」




 少し力を込めて地面を蹴って走り出す。…はずだった。




ガコン




「…?」




 駆けだそうと一歩踏み出した足元の床が下に落ちて、私の足が空いた穴に落ちていき前に倒れている脛を思いっきりぶつけて止まった。




「‥‥」




 すぐに足を引き上げてぶつけた脛を抱えて無言でうずくまろうとする。すると、うずくまるために片膝をついた膝が焼けるように熱くなったのを感じた。




「アッツ!」




 思わず声を出しながら飛び上がり壁にもたれかかって脛と膝の様子を見る。脛は痛みはするが骨まで行ってないだろうし、痣になるくらいだろう。膝も少し赤くなっているが火傷まではいかないだろう。




「大丈夫ですか~?」




 少し笑うのをこらえながらセラが聞いてきたが、流石に不意打ちすぎて変な声を出してしまった。




「…大丈夫だ。しかし何で床が抜けたんだ?」




 そう言って穴の開いた床を見ると何故か穴の中から赤い光がこぼれている。




「何ですかね~?」




 セラが少し警戒しながら近づこうとするのを止める。




「…私が先に見る」




 立ち上がって穴を見る。すると穴から吹き付けられた熱に思わず顔をそむける。


しかし、何とか眼を開けて下の光景を見ることが出来た。




「隊長~?」




「…少し歩きながら話そうか」




 そう言って穴から離れるように慎重に歩き出す。セラは聞きたそうな顔をしながら我慢して私のすぐ後ろを歩いている。




「…落ち着いて聞いて欲しい。溶岩だ」




「え?」




「穴の下は溶岩だった」




 一瞬だけだったのが穴の下には赤い溶岩がボコボコ泡立てながら広がっていた。もし、あの穴が大きかったら私は落ちていただろう。そう考えると少し怖く感じる。




「あ~そうでしたか~なるほど~」




 私の思いに反してセラは『なんだ、溶岩かー』みたいな反応していた。




「何だ?その顔は?溶岩だぞ、怖くないのか?」




「いえ、少し意外でした~。隊長が深刻な顔をしながら言っているので、下に核爆弾でもあったのかと思いました~」




「失礼な。私だって生きている。生きているのだから溶岩を怖いと思うことぐらい普通だろう」




「そうですけど~でも、隊長前回の仕事の時に転生者を溶岩に突っ込ませたりしているから~怖い物なんてないんだと思っていました~」




「あれは、あらかじめそうなると覚悟していたし、溶岩に落ちても足場(転生者)があったから平気だっただけだ」




 私はドッキリとかには本気でビックリするが、お化け屋敷とかホラー映画とかあらかじめ怖くなるぞと教えてくれている物なら心の準備が出来るからそんなに驚かない




「それに火傷って結構痛いんだぞ」




 実際に前回の仕事の後の病室で誰もいない時に寝ようとしても火傷の痛みで中々寝付けなかったから、少し寝不足治る前日まで目の下に隈が出来ていた。もう大丈夫だけど、ちょっと辛かったのは事実だ。




「いえ~普通は溶岩に入ろうとしている時点で相当すごいですよ」




「…そうか、ならそれよりも怖いものがあるから平気なのかもしれないな」




「溶岩よりも怖いことがあるんですか~」




「ああ、正直そっちの方が怖かったりする」




「へぇ~気になりますね~」




「それは、恥ずかしいから絶対に言わないぞ」




 ユッカは知っているが他の人に言ったら『ソ』に入れると言っている。それほど恥ずかしい事だから教えられない。




「ん~」




 だが、セラは目をキラキラさせながら近づいてくる。今、仕事中なの忘れていないか?




「言わないからな、絶対言わないからな!だから、キラキラした目をやめてくれ」




「ん~」




 ちょっと、顔、近い、やめて、つらい




ゴゴゴゴ




 少し後退りながらセラに迫られていると突然床がぐらぐらと揺れた。




「崩れませんかね~?」




 セラは顔を離して周りを警戒している。助かった…




「怖いことを言わないでくれ、それに構造的にそう簡単にガラガラと崩れる者でもないから大丈夫だろう」




 でも少し心配なのは確かだ。




「さっさと渡り切ってしまおう」




 そう言って、少し慎重に駆け出す。




「は~い」




 間延びした声は変わらないが、顔つきは先ほどとは違って見える。切り替えが早くて私としても助かる。本当はその口調も変えてくれると助かるのだが、流石に強制は出来ない。


少し床が抜けないか内心ビクビクしながら通路を走る。




 セラには言っていないが穴から覗いた溶岩の海には壁が見えなかった、なので下のマグマだまりがどの程度の広さなのか私には予想が出来ない。もしかしたら、この通路の最初から最後までずっとマグマだまりの可能性もある。そのことを言いたくなかったから話をそらそうと思った。しかし、そらしすぎたな。転移者はもう目的の場所にたどり着いているかもしれない。帰り道は同じなのかもわからないからなるべく、追い付いて欲しいが難しいかもな…




 そう諦めていると、通路の先が光っているのが見えた。




 …まさかな。一瞬嫌な予感がしたが、いや、ないだろうと考えた。


しかし、そう思いながらも近づくと次第に予想が現実になっていることに少なからずショックを覚える。




「隊長…これは~…」




 セラの言葉を受けながら通路の端が見えてくる。見える限りだと通路が途中でなくなっていて少し先に通路の続きが見える。つまり途中の通路が落ちてなくなっているのだ。




 そして、これは完全に予想外だったが、通路の途中に浮いて移動している転移者と魔法使いが見えた。

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