奥へ奥へ

 しばらく走ると洞窟のような物が見えてきた。火山の山腹にあるだけあって物々しい雰囲気が漂っている。見た所、溶岩が冷えて固まった時にできる岩や石によって形成されている様に見える。




「ここか」




 私達は互いに顔を見合わせて頷いた後に走り続けて洞窟の中に入っていく。入る前にポーチからペンライトを取り出して、正面を照らしながらゆっくりと進んでいく。




「?これは…」




 少し歩いて足元に何となく違和感を覚えて思わず立ち止まって下を見る。ライトに照らされた床は、ほとんどが石や岩が覆われているが、私が違和感を覚えた所は何故か石レンガのような物で舗装されている。床の先を照らすと大部分は石や岩が見えるが所々石レンガが岩の間から顔を覗かせており、壁や天井も照らすと床よりもはっきりと石レンガによって舗装されているのが見える。




「洞窟というよりも遺跡だな」




「そうですね~迷路になっていなきゃいいんですけど…」




 セラの言う通り遺跡が迷路のようになっていて、その道の途中にトラップが仕掛けられていたりと追うのが面倒になっている場合があったりする。もし迷路なら現在地点から転移でいったん戻り記録課から地図を貰ってから戻るのも考えた方がいい。




「っと、先が開けたな」




 そう考えながら進んでいると、急に広い空間に出た。足を止めずに進みながら周囲をよく見てみると、少し高い台座のような物が一定間隔で設置されておりその上に金や銀などが置かれているのが見える。壁にも中身が無くなった額縁や、ガラスが割れて中身がむき出しになった剣のような物等がある。そして床や台座の近くに溶岩が冷えて固まったのだろう、黒い岩が至る所に見える。




 何となく、どこかの世界で寄った美術館の様にも見える。もしかしたら、実際に美術館だったのかもしれないな。ここが火山の山中にあることからして、この洞窟のすぐ後ろに存在している火山が噴火した時に溶岩が流れ込み屋内に侵入、当時ここの中に人がいたのかは見た限りだと骨が無いから燃え尽きたのか逃げたのかは分からないが、溶岩は美術館を覆い現在の姿になったということか。




 もし美術館と予想するなら広さも納得できる。天井はライトで照らさなければ見えない程に高く、また二階があったような跡というか残骸があちこちにある。ここで転移者が隠れてた場合だと見逃す可能性が高いから少しゆっくり行こう。


私達は周りを注意深く見回しながら歩いていく、落下物や台座があるせいで隠れられそうな場所が多く注意深く見ていると時間がかかりそうだが、それでも時間をかけて進んでいく。そしてしばらくゆっくりと進んでいるとと奥からドオーン!!大きな音が聞こえた。




「急ぐぞ」




 私達は走り出して音の所に向かう、少しすると再びドオーンと音がして先ほどよりも大きく聞こえ奥に微かに光っている物が見えた。セラに合図を出して近くの残骸に身を隠してそっと奥の様子を伺いながら接近していく




 奥まで行くと、転移者と魔法使いが壁で固まっている溶岩石を攻撃しているのが見えた。何故壁を殴っているのだろうか?転移者の様子を見る感じ結構焦っているように感じるから、何の考えも無しに殴っているわけではなさそうだ。




 となると妨害したいところだが、たまに魔法使いがチラチラと後ろを見ているから不意打ちは難しそうだ。接近してもここからだと完璧に気づかれずに接近するのは無理がある。


まぁ、不意打ちが駄目なら物量で押すだけだ。




 セラに合図に合わせて重機関銃で掃射するように光信号で指示を出して、後ろに背負っていたXM29をグレネードにセットして構える。




「てぇ!!」




 両手で銃を構えている状態から声以外に合図を送る方法が思いつかなかったので、思いっきり声に出して指示を出す。声に気が付いて二人が後ろを振り向く、転移者が魔法使いを突き飛ばしたので心置きなく撃ち尽くすことが出来る。最初のセラの銃からの着弾による土煙であまり良く見えないが、グレネードなら着弾地点を中心に爆発するから問題ない。




 しばらく撃っていると突然今までの中で一番大きな音がして、それとほぼ同時に何かが砕ける音がした。


私達は撃つのを止めて煙が晴れるのを待つ、煙が晴れると最初に見えたのは黒い壁だった。


転移者も魔法使いも見当たらない。セラに合図して両サイドから回り込むように動いて同時に壁の向こうを覗こうと動く。黒い壁は近づいてみると地面にある岩と同じものだった。しかし、向こう側には誰もいない。転移者が立っていたであろう場所には、黒い壁が収まりそうな穴がぽっかりと空いている。




「まさか、地面の岩を浮かせて壁にしたんですかね?」




「その可能性が高いな。それに…」




 壁のさらに後ろ、転移者と魔法使いが攻撃をしていた壁を照らす。黒い大きな壁があったはずの場所は一本の通路が現れていた。多分通路に流れていた溶岩が固まっていた溶岩が塞いでいたのだろう。そして、それを砕いて奥に進んだと…。中々脳筋的な思考だな、そしてそれを可能にする筋肉、やはり筋力がパワーアップされている様だ。




「セラ、奥に進むぞ。何か物音が聞こえたりしたら、すぐに私に言うんだ」




 この状況私達が少し不利だ。通路は脇道なしの一直線に見えるから、向こうが石とかを全力で投げてきたら危険だ。岩をも砕くほどのパワーがある筋肉から投げられる医師なら、一般人は間違いなく木っ端微塵になり即死だ、頑丈に作られた私達でも気絶は免れないだろうし、打ち所が悪ければ死ぬかもしれない。




 暗いから反応できるか不安があるが銃を仕舞い、代わりに刀を抜いて中段に構え前方に意識を集中する。刀を両手で持って動くからライト係はセラに交代してもらい少しづつ歩き出す。


多分私なら躱すことが出来るかもしれないが、セラは重機関銃を二丁持っている重装備だ。走ることは出来ても咄嗟に反応して動くのは、どうしてもワンテンポ遅れてしまう。だから私が壁になってセラの分もさばくために前に出て構える必要がある。




 流石に相手の腕は二本だから物を投げる間隔はマシンガンよりも遅いはずだ。なら多分何とかなるはずだ。ビームサーベルっぽいのがあればマシンガンでも大丈夫なのだが、今の刀だと少し厳しいからそうであって欲しい。


そう願いながら集中を切らさない程度に急いで奥に進んでいく。

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